魔界事変35 『激昂』
・・・あの四つ目の人斬り男が近づいてくる・・・本当になすすべもなく死ぬんだ・・・。
ちくしょう・・・月の光があれば・・・
キィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!
・・・ん? なんだこの音は・・・? そうか、お月様が怒ってるんだ。「ジーナ、なんでそこで諦めるんだ」って。
ごめんなさいお月様・・・でもあたしはもう・・・
カッ!!!!!!
「カッ」という擬音が実際の音として聞こえた瞬間、視界が真っ赤に染まった。
・・・真っ赤な光・・・これって・・・
なんだろう・・・なんだろうこの気持ちは。物凄く腹が立つ。なんであたしはこんなひどい仕打ちを受け続けるんだ?あたしはなにか罰が当たることでもしたのか?この四つ目のクソ野郎はなんの恨みがあって襲いかかってきたんだ?
暴風のような、激しい感情に心が埋め尽くされていくのが分かる。心が真っ黒に染め上げられた瞬間、突然真っ暗な闇に投げ出された。息苦しさを堪えながら、自身の心が進めと言った方向にひたすら歩を進めると、その先にいたのは
『ウィレム・・・?』
・・・その先にあったのは少年の後ろ姿だった。トゲトゲした緑がかった黒髪にコウモリのような小さい翼、右の欠けた二本角・・・一目でジーナは察した。絞り出すように発した声は、少年には届かない。それでもジーナは一心不乱に少年の元へ走った。名を何度も叫びながら。
あと数歩のところで、少年は突然振り返った。今にも涙がこぼれそうな悲痛な面持ちで
「・・・ジーナ」
とだけ残すと、少年の像は、霞のように霧散して消えてしまった。
呆然と立ち尽くすしか、ジーナにはできなかった。
負の感情に理性が食い荒らされているのに気づいた瞬間、足元を中心に真っ暗闇の世界にヒビが入り、砕け散った破片と共にジーナは真っ逆さまに落ちていった。
・・・気がつくと、現実世界に引き戻されていた。さっきの真っ暗闇の世界は幻覚だったのだろうか。しかしあの四つ目に殺されそうになっていたのに、その男から隠れるように木の陰に移動していた。叫び声が直ぐ側で聞こえてくる。それも意識が戻る前よりもずっと、ずっと鮮明に。悔しがっている敵の姿を見ると、なんとは無しに非常に腹が立つのだ。理性を働かせるまでもなく、魂が命じてくるのだ。生まれてきたことを奴に後悔させてやろうと。
力が溢れてくる事と全身の傷が塞がっていることに気がついたのは、敵の後頭部を思い切り殴り飛ばした後だった。




