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魔界事変29 『カゲロウ高原のオオムカデ』

「・・・」


 ダイゴロウは背中と頭の荷物をそっと置くと、腰の刀でその眼を斜に切りつけた。


『ギオオオオオオオオオ!!』


 化物の悲鳴が響き渡る。


「やかましい。連れが起きてしまうだろう。」


 軽口をたたきながら化物の特徴を探る。


・・・身の丈は計り知れない。巨大なムカデのような醜悪な姿をしている。さっき切りつけた目は上下に付いた2つの目のうちの一つらしい。潰れていない方の眼はこちらをまっすぐに見つめている。


 化物が足の一つを振り上げ、こちらに突き刺してきた。ダイゴロウは横に飛んで避けたが、足の突き刺さった場所は大きな穴が空いている。足先は鋼の硬さらしい。殺気を感じて上方を見上げると、その無数の足がこちらに向いている。


・・・あ~・・・これはまずい。


 その足が一斉にダイゴロウを串刺しにせんと襲いかかる。矢継ぎ早に地に突き刺さる槍はその地点に小さなクレーターを作った。


 刀である程度いなしながらなんとか躱しきったが、本気でやらないとまずそうだ。そう思った少年は目を閉じ、空気を大量に取り込んで力を集中させる。橙色のオーラが体を覆い、その流れが静かになった瞬間、眉毛のように見えていた眼が開眼した。


「覚悟しろ。」


 ダイゴロウの4つの眼が魔物を睨みつけ、もう一本の脇差も抜いて構えた。


 魔物はその様子の変化に一瞬だけたじろいだようだが、奇声を発しながらまた槍のような足を一斉に突き刺そうと狙いを定める。


 地を穿つ無数の槍をかわしつつ体を駆け上り、ムカデの頭の上に至ると、ダイゴロウは二本の刀を同時に振り下ろした。その刃は見事魔物の頭を3つに叩き割り、魔物は力尽きて長い体を地べたに叩きつけた。


 ダイゴロウは一息付き、刀にこびりついた体液を振り払うと鞘に収めた。


 ・・・こいつは大した大物ではなかった。動きがそれほど機敏ではなかった。見掛け倒しも良いところだった。こんなのに冷や汗をかくとはワシもまだまだ甘い。

・・・「アレ」を使ってもいいと思えるような相手と切り合いたい物だ。


 ダイゴロウは自分を戒めながら先程の騒ぎなど気にもとめず呑気に寝ているシェラ入りの背負子を背負うと、さっさと場を後にした。

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