魔界事変21 『宰相』
久しぶりの投稿です。
…マルティスめ。
元魔王の私室でふんぞり返る男は憎らしそうに先程皇子に掴まれた胸元を探りながら虚空を睨みつけた。
あの小僧…【魔王の秘石】をこっそり掠め取って行きおった。あれが無くては城の力を完全に操ることは出来ない。
完全に油断していた。しかもその皇子も付人の小娘と共に何処かへ逃げおった。
【黒い兵士】共を使って大砲で逃げたのまでは把握しているが…その大砲が真後ろを向いていた上に破壊されていた。小賢しい。なんと小賢しいことか。
小僧の方は捕らえさせたが…奴の吐いた情報も恐らく信憑性はあるまい。秘石はなんとしても取り戻すとしてまず今は街の連中を篭絡しなくては。大義名分を持ち出したは良いが傍から見ればこんなものはめちゃくちゃな理論のただの乗っ取りに過ぎん。
だからこそ…内政は急務だ。そのために…
何者かが私室の戸を叩き、返事をするまえに入ってきてすぐに
「おいオールス!オレは腹が減ったぞ!飯はまだか!」
と言ってきた。…魔王の第二子、サザだった。
わしは考え事を邪魔された怒りを抑え、他人に見せるような微笑みを作って、「おや皇子、もうお腹が空いたのですか?それではこれから用意を致しますので食堂でお待ちくださいませ。」と限りなく穏やかに伝えた。サザは舌打ちをして扉を乱暴に閉めて行った。
…まったくどうしてこんなに品の無い子に育ったのだろうか。こいつの兄貴とはまさに真反対だ。まぁ自分で考えることを知らないやつだからこそ利用しやすいというものだ…良い感じに利用して、用済みになったら「雫」の素材にしてやろう。上から落とせば落とすほど、純度が上がるからな。
男の笑い声は男の私室に響いた。




