魔界事変01 『悪夢』
どうしてこんなことに
月が怪しく照らす海に少年は投げ出された。もはや指一つ動かすことすらも叶わない。海は小さな水しぶきを上げながら、落ちてくる少年を飲み込んだ。
俺は今どうなってるんだ・・?
彼には体をほんの少し動かす余力も、あらゆる感覚すらも残っていない。
俺はここで死ぬのか・・・享年12歳・・くだらねぇな・・
身体の芯まで凍りつくような極寒の海の水の中、少年は静かに目を閉じた。
ーーーーー!!
少年は暗い部屋の中、突然目を覚まして飛び起きた。
その息は荒く、その表情はまさに恐ろしい夢を見ていたかのように強張っていた。
しばしの時が流れ、少年は3回ほど深呼吸をして周りを見回した。
親の顔よりも見た手足、身体に見慣れた本棚、見慣れた机、見慣れたベッド・・・そこはまさしく彼の部屋であり、彼は彼だった。
「夢だったか・・・」
ため息をつきながらベッドのそばの窓を開けると、ひんやりとした乾いた風が「頭を冷やせ」と言わんばかりに吹き込み、身を乗り出して外を見ると、青白い満月が海を、陸地を、そして街を美しく照らしていた。
風にあたって落ち着きを取り戻したのか、ベッドから降りた少年は部屋の端に掛けてあった暦を見つめた。
「そうだったな、今日は・・・」
少年はそう言って自分の部屋を後にした。