魔界事変12 『魔界事変3』
思い出した・・・?何をだ?
『階段を登ってるとき、人が入れそうな大砲見つけた!』
ジーナが再び叫んだ。
大砲か・・・そんなものに入り込んで弾丸として飛ばされたらただじゃすまねぇだろうな・・・だが、このままなぶり殺されるよりかはマシか・・!
「ジーナァ!俺らを案内しろ!皇子は俺が運ぶ!!」
それを聞いたジーナは、皇子をこちらに投げ渡してきた。皇子・・・手荒な仕打ちは勘弁してくれ・・・
ジーナは恐らく大砲があるであろう東側の上を向き、虚空を睨む。動きを止めたこの少女を捕らえようと黒い兵士が取り囲んで一斉に飛びかかるが、ジーナが背負った鎌をぐるりと回すように鎌を振るうと紫色の軌跡が輪を描くように残存した。その軌跡に触れた周囲の黒い兵士の体が両断される。
死神族固有の能力・・・霊術だ。
『今集中してる、邪魔しないで』
ジーナは虚空を見つめながら、静かにつぶやいた。
さすが死神族だ・・・さっきの紫の光・・・皇子の首にモロにかかってたが首は繋がっている・・・恐らく攻撃対象に融通がきく類の術だな・・・
いや、感心してる場合ではないか・・・ウィレムはそう思って走り出したジーナについていき、ひたすら城を登り続けた。
『ここ!』
ジーナの指差した長い廊下の先には人間・・・特にウィレムたちのような子供がちょうど入れそうな大きさの大砲が鎮座していた。吹きさらしになっていて、潮の香りが漂ってくる。大砲で海に落ちても、陸地に叩きつけられるよりは生存確率は上がるはずだ。
よし、これで逃げられる、と思った瞬間
大砲のある場所を守るかのように、黒い兵士がさっきよりもずっと多くの数になって現れた。しかも一匹一匹の持つ気迫がさっきの連中とは比べ物にならない。
宰相の糞ジジィめ、なんとしても皇子たちを逃さねぇつもりだ。
もし三人同時に逃げようとすれば、必ず失敗する。誰か1人が囮にならねぇと。
『あたし囮になる!』
「だめだ!お前は皇子と逃げろ!囮は俺だ!」
俺は反射的に叫ぶ。ジーナの口から信じられない言葉が出てきた。どうやら考えることは同じだったらしい。
だめに決まってるだろ。ふざけるな。女のジーナがもしも敵に捕まったら・・・間違いなく死が救いに見えるほどの陵辱を受けるだろう。それが歴史だ。だめだ。絶対に!!こいつは俺と違って価値のある存在だ。絶対に傷つけさせない!
『三人で逃げる!お前も一緒!お前置いて逃げたくない!』
ジーナが目に涙をためながら叫ぶ。
「・・・ふん。全くしょうがねぇやつだ。わかったよ。一緒に逃げるぞ。」
ジーナの顔がパッと明るくなる。
「さぁ、もう少し敵を始末するから先に奥の方へ進んでろ。皇子も持っててくれ。」
そう言ってウィレムは微笑みながら未だ意識のない皇子をジーナの方へ投げ渡した。
ジーナが皇子を受け取ったのを見届けると、廊下の上方を光の刃で切り裂き、通路を塞ぐように瓦礫を落とす。
『何してる!?一緒に逃げるんじゃないのか!?』
ジーナが目を見開いて叫んでいる。
「うるせぇ原住民が!お前みたいなやつと誰が約束を守るってんだ!さっさと行けよ!」
ジーナは突然突き放された衝撃からか固まっているようだ。
・・・こんな言葉を使いたくは無かった。だが囮にならなければ・・・恐らく大砲で逃げても必ず連中は追いかけてくる。今までの動きから見ても恐らく黒い兵士の感覚はあの宰相のジジィと共有されている。大砲の向いていた方向、角度を記憶されたら逃げた先にまで追手を送り込むはずだ。
こうするしかねぇんだ。許せ、許してくれジーナ。俺みたいなやつは捨て駒で良いんだ。お願いだ。さっさと逃げてくれ・・・!
「行けェ!!!!」
喉が潰れそうなほどの勢いで叫ぶと、塞がっていく入り口の隙間から、大砲に向かうジーナ達の姿が見え、その数秒後には激しい爆音と共に何かが飛んでいくようだった。
【霊術】
死神族が使う固有の術で、魔法とは原理を全くの異とし、あらゆる空間に存在する精霊の持つエネルギー、「霊力」を使用して行使する。
ジーナが使用したのは【霊術・残滓】と呼ばれる比較的難度の高い技で、霊力を込めて振るった武器の残像を実体化させ、刃とする術だが、切る対象や切らない対象を自在に指定できる。




