魔界事変09 『魔王の言葉』
魔王は、付き人が原稿を渡そうとしてきたのを手で遮り、壇上に立って話し始めた。
【初代様がこの国を建国されてから現在に至るまで、この国は数多くの試練に立ち向かい、そして乗り越えてきた。その長さははや数え1000年。未だ嘗て、人間界においても、天界においても、これほどまでに長い時を生きた国がこれまでにも、これからにも存在する、あるいはしたとしたらそれはどこであろうか?答えは一つ。それはここ、魔界帝国である。】
魔王はそこまで話すと、一旦言葉を止めて息を吸い直す。
・・・さすがすべての闇の世界の民の上に立つ魔王だ。彼の言葉の文字の一つ一つにはずっしりとした重みがあるように感じられる。
魔王は続けた。
【この建国1000年を祝する儀も長い目で見れば、決して国家史上最大の記念とはならないだろう。それは次の1000年先、その次の1000年先もずっと、この国の威光を保ち続けなければならないからである。さて、国がこれまで以上に勢いづき、繁栄していくのに果たして何が最も重要か。それは私のような君主ではない。それは貴方がた、帝国に生きる民である。貴方がたや貴方がたのご先祖が、この国を繁栄させ、私達につなげてくれたように、それでは私達も子々孫々につなげていこうではないか。この建国1000年の儀を、それを再確認する一つの節目としたい。恥ずかしながら病の身ではあるが、これからも貴方がたのますますの貢献を期待している。
私からは以上だ。それではー
・・・完璧な演説だった。俺はこの魔王の息子として生まれたことを心の底から誇りに思った。ジーナもウィレムも同じ思いのよう・・・
・・・二人の様子がおかしい。どういうわけか二人の目線は父上の足元に向いているようだ。
・・・まさか。
恐る恐る父上がいるほうに向き直ってみる。
その瞬間、全身から血の気が引いていくような気がした。呼吸が満足に出来ない。呼吸が激しく乱れて、手足がビリビリと電気を受けたようにしびれ、真っすぐ立っていられない。
父 上 が 倒 れ て い る
「とうちゃあああん!!!!
我に返った俺は叫んで父上に駆け寄った。「父上」などと言う余裕なんてありはしない。
どうして誰も言わない?なぜ黙ってるんだ?
父上はうつ伏せになる形で事切れていた。体に外傷らしきものもないし出血もしていない。どういうことだ?
ひどい悪寒がして父上の亡骸から飛び退く。すると父上の手に、足に、全身に黒い四角形の集まりのような痣が侵食し始めているのに気づいた。
『皆の者、これを見るが良い。』
声の方に振り返った先にいたのは、オールス宰相だった。




