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ライコウとルイコウ

作者: 月見里 桜

『ライコウとルイコウ』

 緑深い森の中の湖の上。静かに波紋が広がる。チャプッ水面に二人の人物が立つ。一人は亜麻色の髪を腰まで伸ばし、白いドレスのような服を纏った二十歳前後の女性、もう一人は鋼のように黒い髪を短く切りそろえ、黒いローブを纏った二十代半ば頃の男性。男性は右手をを持ち上げて指を立てて空中に何かを描く。女性は大きい瞳を心配げに細めて男性と同じく空中に何かを描く。二人が描いたのは陣。二人は同時に叫ぶ。

 「    」

 「    」

 と。

 風が唸り声を上げて大粒の雨が降る。そして、雷が右から左へ、上から下へとほとばしる。風のためフードがはじけ飛びフードの下から苦し気な男性の顔が覗く。女性ははっと息を飲む。

 「ライコウ」

 「心配するな、ルイコウ。もうすぐ母の御手に戻るだけだ」

 男性、ライコウは水面に膝を付く。女性、ルイコウは胸の前で手を祈るように組む。

 「母よ。時を与えたまえ。ライコウを連れていかないで」

 「無理な話だ。母は兄弟姉妹に平等だ。故に天秤の女神と呼ばれる」

 膝からライコウが崩れる。ルイコウはドレスの裾に躓いて転びそうになりながら、ライコウに走り寄る。崩れ倒れるライコウを胸で受け止めて、呟く。

 「お母さま。どうか、ライコウを連れていかないで。私の命を上げるから」

 「天秤の女神たる母に願っても無駄だ。母は無慈悲、冷徹の女神」

 ぎゅっとライコウの頭を抱えながら呟く。

 「愛しています。愛している。私はライコウを愛しています。だから、お母さま、ライコウを連れていかないで」

 ライコウはふっと微笑む。

 「死と呼ばれる母だ。全てに平等に訪れるから天秤の女神なのだ。ルイコウ、こんな俺を愛してくれてありがとう」

 「ライコウは私の事…」

 力が抜けてライコウの全体重がルイコウにのしかかる。尻もちをつく。

 「ルイコウ」

 弱弱しく、ライコウは。

 「愛している」

 そう、そっと言葉を零す。

 「私もよ、ライコウ」

 「ルイコウ」

 ライコウは弱弱しく顔を持ち上げてルイコウの頭を引き寄せる。

 「ライコウ…」

 そっと唇を重ねる。暫くの沈黙。唇が離れるとルイコウの顔に真っ赤な花が咲く。

 「さらばだ。ルイコウ」

 ライコウが最後の言葉を口にした瞬間、ライコウの体が激しく瞬いてルイコウは目を瞑る。ものすごい量の光。目が潰れそうになる。ルイコウは胸のライコウの感触が無くなったことに気づく。変わりに、小さく硬い水晶が胸の中にある。胸で抱きしめていた全てが一瞬で無くなってしまった。

 「あっ。ライコウ、ライコウ、ライコウ…」

 胸に中に雷の形の模様が浮かぶ水晶を抱きしめる。むせび泣く、慟哭。声にならない叫びが木霊する。水面に静かに波紋が広がる。そして、ただ雨が降り続いていた。

 

『モクレンとスイレンの話』

 大地に根を張る大樹。モクレンは水に浮かぶスイレンに恋をした。どう頑張っても混じり合うことのない二人。でも。

 「私はあなたに恋をした。あなたに触れたい。そのためなら、何でもします」 

 そう言って、森の長老である大いなる楠に語った。胸中を。張り裂けないばかりの恋を語った。楠は。

 「そなたが一度きりで良いなら手はある。人の刃にその身を捧げるのだ。そうすれば、池にそなたの身は倒れて、スイレンに触れることが出来るだろう」

 暫くした後、人が森に割って入った。鈍く光る刃。斧を持って。カーン、カーン、とモクレンを切る音が森に響く。ゴーンと大きな音を出す。モクレンは池に倒れた。そして、待ちに待ったたった一度きりの触れ合いを果たす。

「漸く、あなたに触れられた」

モクレンは。

「スイレン…」

 一言、名前を呼んだだけで黙ってしまった。白いモクレンの花びらが水底に沈んで行った。


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