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12 目指す先



「ごめんな」



レグルスが、謝っている声が聞こえる。


気のせいかな、と思った。それからしばらく瞳をつむったままでいて、ゆっくりと辺りを探ってみると、私のおでこにくっつくように、レグルスが寝息を立てていてびっくりした。跳ね上がった心臓を必死に抑えて我慢をして、ぐっと唇を噛み締めた。それからゆっくりと息を吐いた。何度も見た彼の顔だ。


初めの頃はまるで森の中みたいな彼の瞳を見ると、確かにここが別世界なのだと認識して、ひどく胸の中が苦しくなった。なのに気づけばレグルスの声をきいて、姿を見てひどく安堵する自分もいた。(謝らなきゃいけないのは、私なのに) 私は、勝手にレグルスの前に落っこちた。



レグルスが喚んだから。それが本当のことなのか、そうじゃないのか。今となってはわからないけど、私は今、レグルスの時間を奪っている。旅をしたことがあると言ってはいたけれど、こんなに遠くまでやってきたことはない。だから全部、レグルスにとっても初めての場所で、ただ私の“紐”をたぐってここまで来た。


荷物を捨てることができないと泣いて、魔物におびえて、生き物が怖くて、なんにもできなくて。こんなただの足手まといに、まあがんばれ、とレグルスは笑って、手のひらを差し出してくれた。ずっとレグルスに甘えている。



本当なら、もういいよ、ありがとう。そう言って私は彼を解放すべきだ。わかっているのに、そんなこともできなくて、ただ二人で旅を続けた。この旅の終わりは、一体どうなってしまうんだろう。最初の頃は、はやく、はやくと先に進みたくてたまらなかった。なのに今は進むことが怖い。レグルスと別れてしまうことが怖い。


こんなにも近くにいる。

それなのに、やっぱり彼はひどく遠い。ときどき、不思議と通じることのない会話に気づく度に、私達は違う言語を喋っていることを思い出す。レグルスと私の間には、不思議な壁があった。透明で、大きくて、硬くて、でもとっても薄くて、ときおりそれがあることを忘れてしまう。


パチパチと焚き火が弾ける音が聞こえる。彼を起こさないように、ゆっくりと互いの額を合わせた。こつり。不思議と胸の中が温かくなった。(この時間が、ずっと続いたらいいのに) 変化なんていらない。このまま二人でレグルスと一緒にいたい。そう思う。なのに、私と神殿をつなぐ“紐”は、残りの道筋をぴったりと教えてくれる。もう、半分なんて、とっくに過ぎてしまっていた。


さむい、さむい、北の街だ。

私とレグルスは、ただそこを目指していた。


(はやく)


ずっと、感じていたことだ。



(私は、はやく、レグルスを解放してあげなきゃいけない……)


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