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第85話 錬金術師は現代を往く

 しばらく女王との談笑を楽しむ。

 話題が途切れたタイミングで、私は手を打った。


「所長と待ち合わせをしているのだった。そろそろ失礼するよ」


 話が盛り上がりすぎたが、待たせている頃だろう。

 女王に別れを告げてから私は転移する。


 行き先は聖教国の宮殿だ。

 教皇と殺し合いを繰り広げたあの場所である。

 いちいち歩くのも面倒なので、室内に直接転移した。


 手入れの行き届いた室内は私が修復した。

 機能面を重視して改装も行っている。


 長テーブルの端には所長が座っていた。

 白と金を基調とした高級な衣服で、胃痛を耐えながら書類を睨んでいる。


 私はそんな彼に声をかける。


「ごきげんよう、グレゴリー君」


「違います。私の名前はグレゴリー……って、え?」


 所長が困惑していた。

 予想外の流れに混乱し、口を無意味に開閉している。


 私は得意げに言葉を続けた。


「今日は間違えずに呼んだとも」


「は、はぁ……ありがとうございます」


 所長は私に感謝を告げる。


 なぜ彼がこのような場所で書類を見ているのか。

 理由は単純だ。

 新たな教皇に所長が就任したからである。


 全面降伏した聖教国は、晴れて王国の属国となった。

 実質的な支配地だ。


 大きな貢献を果たした私は、女王から聖教国を任された。

 私を新たな教皇に仕立て上げようという魂胆だろう。

 聖教国の支配力を高める一環と思われる。


 そのような役職は面倒なので、私は所長に押し付けた。

 私は地位が欲しいわけではない。

 何をするにしても、特別軍事顧問という役職があるので十分だった。


 所長には出世欲があったのでちょうどいい。

 支配地とは言え、一国の最高責任者に就任できるのだ。

 まさに適役と言えよう。


 無論、反発もあった。

 ただし私が任命したのだと周知されると、誰も文句を言わなくなった。

 そういった経緯を経て、所長はめでたく教皇になれたわけである。


 ただし、彼にはこれまでの役職も継続してもらうつもりだ。

 教皇はあくまでも形ばかりのものに過ぎない。

 だから私は、彼のことを今度も所長と呼ぼうと思う。


 偉くなった所長をからかうのは面白い。

 変わりゆく環境に戸惑う姿は実に良かった。


「大幅に出世した気分はどうだね」


「それが、まあ、何と言うか……」


 所長は言葉を濁す。

 異論を唱えたいようだが、実際に不安材料はそれほどない。

 彼の直属の部下は、レイモンドとクアナ、それに数十体の使徒だ。

 この前の戦争で死体から量産したもので、戦いで生還した個体を聖教国の軍事力として流用している。


 命令権を所長に設定したので、彼の言葉一つで自由に動かせるようになっていた。

 これによって、彼は気軽に一国を攻め滅ぼせるようになった。

 もちろんそのようなことはしないと分かっている。

 新たな教皇として、その能力を上手く活用してほしいと思っている。


 私はそんな所長を手招きすると、スーツを正しながら話題を転換する。


「さっそくだが外出の準備をしてくれるかな。君と一緒に行きたい場所があるのだよ」


「どこでしょうか?」


「神界だ。制裁は加えたが、事情聴取がまだだからね。せっかくだから君も来るといい」


 滅多に行けない場所だ。

 きっと面白い観光になるだろう。

 就任記念として、所長に楽しんでもらいたい。

 私がいれば身の安全も確約される。


 神神にしかないような光景も多数存在していた。

 この前の劇毒で潰れてしまったスポットもあるが、現存する分でも十分に楽しめるはずだ。


 それだというのに所長は、顔を真っ青にして席を立とうとしない。

 彼は歯切れの悪い口ぶりで言い訳を羅列していく。


「私は、その、これから職務が……」


「部下に任せればいい。給与を何倍かに引き上げれば、喜んで引き受けるだろう。気にせず同行したまえ」


 私は不可視の力で強制的に所長を持ち上げると、そのまま彼を浮遊させて運んでいく。

 当初は慌てる所長だったが、すぐに大人しくなり、無抵抗で浮遊するだけの存在に徹する。

 抗おうとしたところで意味がないと察したようだ。

 理解が早くて助かる限りである。


 私は背後を浮遊して追従する所長に語りかける。


「この世界は素晴らしい。存分に満喫しようじゃないか」


 思わぬ発展を遂げた時代だ。

 相変わらず人間は欲深く、脆弱すぎる。

 神々も傲慢ですぐに問題を起こす。

 しかし、それぞれが光り輝く何かを持っていた。


 私はこの世界を――人類を愛していけそうだった。

これにて完結です。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

本日より新作を始めましたので、下のタイトルリンクより読んでもらえますと嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます! 傍から見たら傍若無人以外の何者でもない主人公ですが、 なろうにおいて飽和しきっている 安易な俺TUEEEチーレム系主人公とは違って超然としており、 このタイプ…
[良い点] 大変楽しく読ませていただきました! 続きを読みたい気持ちもありますし、神界でのアレコレも気になりますが、こんな風に綺麗に終わるとそれも蛇足なのかもしれませんね 完結お疲れさまです! [一言…
[良い点] 面白かった [気になる点] 続きが気になる [一言] 突然の完結にかなり戸惑いましたが...... 毎朝投稿お疲れ様でした。
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