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第81話 錬金術師は無敵の力を発露する

 教皇が光剣を振るう。

 それに合わせて輝く斬撃が飛来してきた。

 権能だけで構成された攻撃だ。

 生身で受ければひとたまりもない。


(まあ、私には効かないが)


 持ち上げた手を向ければ、斬撃は脇を抜けてターンをした。

 そのまま教皇のもとへ返っていく。


 教皇は回避しようと身構える。

 刹那、彼の身体が突如として斜めに断ち切られた。

 何も触れていないのに、いきなり割れたのだ。


「がっ……!?」


 教皇が目を見開いて吐血する。

 遅れて斬撃が命中するも、今度は何も起こらない。

 教皇の身体を通過した斬撃は、壁に当たって霧散する。


 一連の現象を目にした私は顎を撫でて笑う。


「おっと、因果の逆転が起きてしまったようだ」


 今のは教皇に斬撃が当たる前に“切った”という結果が発生したのである。

 明らかにおかしな出来事だが、現在の私に攻撃を仕掛けたのだから、ああいったことも平然と起きてしまう。

 虚無は息をするかのように矛盾を生み出すものだ。


 半身を切断された教皇だが、瞬時に再生を果たしていた。

 ずれ落ちかけた身体が繋がって、衣服も残らず修復される。

 依然として消耗は見られない。

 精神面の動揺を除けば、健康体そのものであった。


(まだ楽しめそうだな)


 私は一歩踏み出す。

 その際、空間座標の連続性を無視して教皇の背後に移った。


「く……ッ!」


 察知した教皇が振り向きざまに光剣を一閃する。

 私は避けない。

 刃が首にめり込み歪む様を、じっと目で追っていた。


 その直後、教皇の首に裂け目ができた。

 ちょうど剣に斬られたような傷だ。

 血を噴出させた教皇は瞬時に飛び退く。

 彼は首を押さえながら私を睨んだ。


 私は夜空色の首を撫でて私見を述べる。


「最たる禁忌に触れているのだ。そういうこともあるさ」


 いつも使っている肉の身体は脆い。

 術の出力も最弱で、あらゆる行動に多大なるハンデが伴う。

 改竄可能とは言え、物理法則に縛られていた。


 現在はそういった制限がない。

 私の行動は多元的な意味で自由だ。

 攻防においては何もせずとも負けることはない。


 その後、教皇は私にひたすら攻撃を浴びせてきた。

 身体が崩壊しながらも加速し、人間の限界を超越して攻め立ててくる。

 多種多様な術を連発しているのは、私に通用する能力を模索しているからだろう。


 しまいには時間停止の精度をわざと緩めて、世界が正常に動こうとする力を変換し、それを一点に集中させて叩き付けてきた。

 神の軍勢すら薙ぎ払えるであろう破壊力はあらゆる防御を貫通し、虚無の身体に直撃した。

 全身に痺れが走り、表面が波打つ。

 体内でエネルギーが反響するのを知覚した。

 世界の修正力が、絶えずこの身を消滅させようとする。


 紛れもない渾身の一撃だった。

 時間停止だけに留まらず、教皇はそれを攻撃能力に昇華してみせた。


「良いぞ。見事だ」


 称賛の言葉を送りながら、私は掌握したエネルギーを複製する。

 そして、累乗で増幅させた末に跳ね返した。

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― 新着の感想 ―
[一言] もはや文章表現一つでなんでもあり 脳死で読めて最高に面白い
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