第75話 錬金術師は教皇の正体を知る
教皇の告白に、私は手を打って納得した。
何度か頷きながら事実を整理していく。
「なるほど。そのパターンだったか」
そこまで関心はなかったが、また一つ謎が解けた。
しきりに納得していると、教皇が眉を曲げる。
「私の正体を聞いて驚かないのだな」
「予想したうちの一つだった。珍しい事例ではあるが、ありえない話でもない」
人間の可能性は、神と違って制限がない。
時に凄まじい力を見せることがある。
一点特化で神をも凌駕する者が現れる場合もあった。
基本的に脆弱極まりない人類だが、稀に魅せてくれるのだ。
神のままでは能力の上昇が停滞する。
その地位にこだわらず、人間になれば成長の余地を得られる。
教皇が狙ったのは、まさしくそのメリットであった。
「私は最高神の一柱だ。人間として転生を繰り返すことで、時間をかけて力を増幅させた。これもすべて、貴様を始末するためだ」
「やれやれ、随分と嫌われているようだ」
肩をすくめた私は苦笑いを湛える。
教皇の執念は大したものだ。
能力のためとは言え、人間になるには並々ならぬ覚悟が必要である。
それだけ私のことを憎んでいるのだろう。
含み笑いをしながら葉巻をくわえる。
教皇は特に止めはしない。
自らの正体を明かしたことで、気分が良くなっているようだった。
私は遠慮なく紫煙を吸いながら質問を投げる。
「聖教国を牛耳るのにも理由があるのかな?」
「無論だ。信仰心を集めることで、この身をさらに強化できる」
聖教国の信仰の対象は神である。
しかし、実際は教皇自身に向けられていたわけだ。
神の教えを説くのも、教皇が自らの目的を遂げるためであった。
なんとも見事なマッチポンプである。
そのために建国したのだとすれば、国民が憐れに思えてしまう。
会話をしていると、室外から悲鳴が聞こえてきた。
聖教国の軍隊が壊滅する音である。
レイモンドやクアナが蹂躙しているらしい。
教皇が忌々しげに愚痴を吐く。
「神界を脅して戦力を提供させたが、まったく駄目だったな。貴様の前では時間稼ぎにもならぬ」
「君はもう少し命を大切に扱いたまえ。神とは言え、かけがえないものだよ」
「貴様にだけは、言われたくない」
すぐさま反論した教皇がため息を洩らした。
彼はゆらりと光剣を構えると、唸るように宣告する。
「――ここで、絶対に殺す。逃がさぬぞ」




