第74話 錬金術師は真実の一端を掴む
壁に激突した教皇が床に落下する。
彼は咳き込んで血を吐いた。
衝撃で肋骨が折れたようだが、すぐに立ち上がってみせる。
負傷を速やかに治癒したらしい。
教皇は再生能力を持っている。
もっとも、これは当たり前だろう。
他ならぬ私と戦うのだ。
何らかの回復手段がなければ話にならない。
私は再び空気の弾を発射する。
教皇は真横に瞬間移動して躱した。
空気の弾は壁に炸裂し、着弾箇所を瓦礫の山に変える。
(さすがにもう当たらないか)
空気の弾は構造を改竄し、物体に触れると破裂する仕組みにしていた。
さらに権能による破壊を無視できるように組み替えた。
まんまと引っかかってくれたが、二度目は通用しなかった。
追尾性能を付ければその限りではないものの、空気の弾にそこまでこだわる意味もない。
これは余興であり、ただの遊びの過ぎなかった。
吹き飛ぶ教皇が見れただけで十分である。
この時点で私は、一つ気になる点があった。
それは教皇の瞬間移動だ。
彼が扱っているのはただの転移ではない。
剣技に織り交ぜて使用し、接近や退避と同時に私を斬っていた。
座標の利用や高速行動では説明が付かない。
まるで過程を飛ばしているかのような挙動である。
明らかに別の系統と言えよう。
(……まさか)
ある可能性が脳裏を過ぎる。
もし私の予想が正しければ非常に面白い。
神々でも滅多に操れない術を、教皇が習得していることになるからだ。
ましてやそれを戦闘用に昇華するなど、実に興味をそそられる。
今のところは推測の域を出ないが、私は半ば確信していた。
教皇は私の期待と予想を裏切っていない。
これは相当な執念の持ち主であった。
筋金入りかもしれない。
教皇に対する評価を上方修正していると、当の本人が眉を歪める。
「何を笑っている」
「君の努力に感心していたのだよ」
紛うことなき本音だった。
私に報復を目論む輩は、過去に星の数ほどいた。
大抵が憎悪に駆られただけの愚か者で、粗末な力と根拠で突貫してくるばかりであった。
そしあっけなく死亡する。
いずれも記憶にも残らない者ばかりだった。
一方、教皇はよくやっている。
感情的な面は見え隠れするものの、それを補って余りある能力を身に着けている。
彼の到達したであろう領域は、上位の神でも触れられていない部分だった。
私は教皇に疑問を呈する。
「それほどの力をどうやって手に入れたのだね」
「…………」
教皇が沈黙する。
気配がひりつくようなものに変質した。
只ならぬ雰囲気を纏う彼は、真実を口にする。
「――私は、神の転生体である。神格を保ったまま人間に落ちることで、存在の可能性を切り開いたのだ」




