第72話 錬金術師は教皇を評価する
神々しいオーラが教皇の手元に集まる。
そして一振りの剣へと変貌した。
光だけで構成された剣だ。
まるで太陽から抽出したかのような色合いである。
剣は権能の塊だった。
物理的な破壊力は絶大だろう。
通常の手段では防げない。
どれだけ堅牢な盾で遮ろうと、薄紙のように切り裂いてくるはずだ。
(教皇は剣士なのか)
意外だった。
教皇は近接戦闘を得手とするらしい。
てっきり魔術師かと思っていた。
或いは遠距離戦だと圧倒的に不利だと悟り、少しでも優勢を築ける間合いを選んだのかもしれない。
「私を相手に剣一本とは。いやはや、素晴らしい度胸だ」
教皇を称賛する言葉を述べつつ、私は所長を保護する。
複数の手段で隔離し、未知の技術でも突破できないように守っておいた。
仕上げに因果律を改竄をすることで、所長の身に起こるあらゆる異常が私に発生するようにする。
これで所長が死ぬことはなくなった。
もっとも、教皇が所長は狙うことはないだろう。
きっと私との戦いに集中するはずだ。
他人を狙う暇があるなら、こちらを攻撃してくるに決まっている。
私の危険性を知る者だからこそ、絶対に余計なことはしない。
教皇が静かに剣を構える。
そして、姿を消した。
「――ふむ」
気が付くと私の目の前に移動しており、剣が私の胸に突き刺さっていた。
心臓を的確に貫いている。
おまけに刃には再生阻害が付与されている上、次元の裂け目まで生み出していた。
後者は宮殿前の門に仕掛けられていたものと同じ術だ。
シンプルな組み合わせだが非常に強力である。
裂け目に引きずり込まれる私は、感心しながら教皇を掴もうとする。
ところが教皇はまたもや消えた。
今度は前方の最初の位置に戻っていた。
さらに掴もうとした私の腕は輪切りになっている。
指先まで丁寧に刻まれていた。
輪切りの腕を中心に次元の裂け目が発生し、そこからも内部へ引き込まれていく。
物理法則を無視した連撃を前に、私の肉体のほとんどが蒸発していた。
「やれやれ、困ったものだ」
私は二つの裂け目を閉じると、床から体積を奪った。
再生阻害を無視して復活して立ち上がる。
スーツも含めて綺麗に修復していた。
「いいぞ。なかなかの初撃だった」
私は拍手を送って教皇を褒め称える。
その反応が癪だったのか、教皇の眼光が強まる。
次の瞬間、私の頭部が内部から爆散した。




