第70話 錬金術師は扉を開ける
宮殿内に侵入した私達は、鮮血に彩られた大殺戮を展開していく。
「少し掃除をしようか」
私が指を鳴らすと、通路の窓ガラスが次々と割れていった。
さらに風の動きを改竄し、荒れ狂う竜巻を作る。
ガラス片を含む暴風が進路上の兵士を切り刻んでいく。
竜巻には神殺しの力を加えてある。
強化された兵士でも即死だろう。
肉塊となった彼らは、宮殿の外へ押し出されていった。
私は高笑いしながらその光景を指差す。
「見たまえ。あれが私に逆らった末路だ。どう思うかね」
「と、とても、恐ろしいです……」
付き従う所長は相変わらず顔面蒼白だ。
早く帰りたい様子である。
彼には記念すべき戦いの目撃者になってもらう。
戦力的な期待はまったくしていない。
一部始終を余さず見せて、その感想を聞かせてもらうだけだ。
ここまでのリアクションだけでも満足できそうだが、教皇という獲物がまだ残っている。
所長には骨の髄まで楽しんでもらおうと思う。
私達は気楽に移動を続ける。
時折、権能を込められた罠を設置されているので、私が解除或いはこの身で受けていた。
他にも使徒が大量に押し寄せてきた。
神界で事前に調達していたのだろう。
宮殿内に待機させていたらしい。
なかなかの数だったが、残らず改竄して私の味方になってもらった。
見事に寝返った彼らは宮殿内の各所に解き放っている。
所詮は使い捨ての戦力であるものの、霧払いにはなるだろう。
今もあちこちから銃声と爆発音が聞こえてくる。
互いの戦力が殺し合っているようだ。
レイモンドとクアナもその中に紛れているらしかった。
軽く感知したところ、派手に暴れているのが分かる。
二人が倒されることはない。
たとえ神が降臨しようと対処可能だった。
さすがに上位の神格になると厳しいが、そのレベルは滅多に現れない。
何より私と敵対したくないため、参戦することはないはずだ。
それに現在の神界は、私がプレゼントした劇毒で大騒ぎである。
土地の腐蝕が進み、神や使徒が死んでいる最中だ。
これまでの出来事から教皇との癒着が窺えるも、彼に助力できる状況ではなかった。
保身に必死な神々を嘲笑いに行きたいが、ここは堪えようと思う。
またいつか、同じことをすれば見物できるのだ。
今はこの戦場を優先すべきだろう。
そうこうしているうちに、宮殿の最奥に到着した。
宝石の散りばめられた扉の向こうに、神格の反応が感じられる。
どうやらこの先に教皇がいるらしい。
逃げもせずに待ち構えているようだ。
(潔いな。悪くない態度だ)
ここまで幾重にも罠を張り、執拗に私を殺そうとしてきた。
そんな教皇との直接対決できるのである。
期待は自然と膨らんでしまう。
にわかに昂る私は、所長の背中を軽く叩いた。
「さあ、最終決戦だ。君も存分に満喫したまえ」
「それは、いや、その、はぁ……」
所長は締まらない返答をする。
彼はどこでも同じ調子だった。
教皇とは大違いであった。
それを不快に思うことはない。
所長らしい反応であり、そうなると予想できていたからだ。
故にそばに置いておきたくなる。
上機嫌の私は、笑いながら扉を開いた。




