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第69話 錬金術師は抵抗を歓迎する

 私は門に張り巡らされた術式の構造を把握し、術式への干渉を始めた。

 制御部分を段階的に改竄していく。


 門には現代技術と古臭い権能が用いられていた。

 ハイブリッドと言うべき代物である。

 私の知識と理解力では解き明かせない部分も少なくない。


 固有の術式が妙に多いのだ。

 体系化された系統を意図的に避けており、対策されないようにしている。

 その努力は見事に成功していた。


 端末の爆破や結界の無力化もそうだが、徹底して私の能力を研究しているようだ。

 僅かな隙を縫うように捉えてくる。

 並外れた執念には感心する他ない。


 教皇が神格であることはほぼ確定している。

 それに加えて、休眠前の私と関わりがあるようだった。

 そうでなければ、ここまで正確に対策を打てるはずがない。


(どこかのタイミングで恨みを買ったのだろうか)


 心当たりが多すぎて、やはり正体は不明である。

 殺した神をいちいち憶えていてはきりがない。

 無駄なことに記憶力を避けるほど酔狂な性格はしていないのだ。


 その時、門の術式が危険な挙動を始めた。

 眼前に次元の裂け目を発生させると、内部へ引きずり込んでくる。


「おお」


 私は後ろに下がろうとする。

 しかし、裂け目の吸引力に妨害されて、離れるどころか密着する羽目に陥った。

 そのまま私の右半身が、裂け目の内部にめり込んだ。

 法則の変性によって人体が破裂し、四散した破片が蒸発していく。

 次元の差に肉体が耐えられないのだ。


「あ、あの……大丈夫ですよ、ね?」


「もちろん平気だとも」


 心配そうな所長に笑顔で応じる。

 私は裂け目を圧縮して塞ぐと、全壊寸前の肉体を瞬時に再生させた。

 スーツに付いた砂埃を叩いて落とす。


 余計なことを考えていたせいで、対処が遅れてしまった。

 ただ、おかげで面白い攻撃を受けることができた。

 次元の裂け目を利用するとは珍しい手法である。


 これは接触した対象に不可逆のダメージを与えられる。

 さらに境界を跨いでしまった場合、こちらに戻ってこれなくなる。

 たとえ裂け目を逃れて再生を果たしたとしても、強烈な後遺症を刻み込んでくる等、悪辣な性質が揃っていた。

 次元差を利用した攻撃は、不死身の存在を抹殺するのに最適な手段の一つであった。


 私が干渉するのを見越して、門に仕掛けていたのだろ。

 残念ながら効果が薄かったものの、発想自体は決して悪くない。

 相手が私でなければ、確実に始末できていたと思う。


「さて」


 私は塞いだ裂け目のパワーを門に逆流させる。

 不可逆の破壊エネルギーを受けて門が歪み、軋みながら変形し始めた。

 中心から渦巻き状に捩れて蒸発し、連鎖して結界が吸引されていく。

 門と結界が木端微塵に砕けながら集束し、あっという間に端々まで崩壊した。

 そこには丸裸となった宮殿だけが残される。


 私は唖然とする所長を引き起こすと、悠然と微笑みながら告げる。


「教皇が待っている。盛大に歓迎されようじゃないか」

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