第68話 錬金術師は聖教国を進む
視界が一瞬で切り替わる。
私達は、白を基調とした街の只中に立っていた。
前方には立派な宮殿が見える。
四つん這いになった所長は、しきりに辺りを見回した。
「ここは……」
「聖教国の中央地――皇都だよ。面倒なので一気に移動したんだ」
説明している間に警報が鳴り響く。
早くも私達の侵入を察知したようだ。
一般市民が逃げ惑う中、宮殿から兵士がやってくる。
戦車や装甲車等もいた。
さっそく砲弾が飛んできたので、軌道を改竄してやり過ごす。
狙いのずれた砲弾は、近くの家屋を粉砕した。
爆炎を巻き上げながら被害を広げていく。
所長は顔面蒼白で慌て始めた。
「ま、不味いですよ! 囲まれています」
「落ち着きたまえ。我々には心強い仲間がいるじゃないか」
私は余裕たっぷりに指を鳴らす。
そばにレイモンドが着地し、所長の影からクアナが顔を出した。
護衛である二人も同時に転移させていたのだ。
私は二人に向けて告げる。
「道を切り開いてくれるかな」
「了解」
「承知」
即答した二人は姿を消す。
次の瞬間、遠くに並ぶ戦車と装甲車が一斉に爆発した。
さらに接近する兵士の首が次々と刎ね飛ばされていく。
前者はレイモンド、後者はクアナの仕業である。
生前から超人だった二人は、私の改造を経てさらなる強化を施された。
此度の戦争では死体を改竄して味方に付けたが、レイモンドとクアナは特別製であった。
量産型とは比べ物にならないほどの能力を誇る。
いくら聖教軍が強いと言っても、二人に対抗できるほどではなかった。
蹂躙される軍隊を眺めつつ、私は所長の肩を叩く。
「さあ、行こう。彼らの尽力を無駄にしてはいけない」
「はい、はいっ!」
所長はよろめきながら立ち上がった。
私達は破壊された兵器や死体の間を歩いて進む。
時折、兵士がこちらに接近しようとするも、攻撃する前にレイモンドかクアナが処理した。
おかげで快適な移動が実現されている。
やがて宮殿の近くまで来れた。
しかし、進路には門が立ち塞がっており、複数の魔術によって施錠されている。
門を調べていた所長が首を振った。
「駄目です。厳重に封鎖されています」
「ふむ、私の転移も妨害されているようだ」
門には教皇の権能が込められていた。
物理攻撃ではまず破壊できないようだった。
加えて私の能力で干渉しにくいように工夫が凝らされている。
展開された結界は宮殿全域を囲っていた。
よほど私を侵入させたくないらしい。
術の出力を上げることで強引に転移し、門の向こうに抜けることも可能だ。
しかし、それはあまりにも無粋だろう。
教皇がせっかく用意してくれたのだ。
難なくスルーしてしまうのは良くない。
明らかなマナー違反と言えよう。
ただ、ここで苦戦するのも格好が悪い。
張り巡らされた罠を堂々と破壊し尽くすのが愉快なのだ。
だからここは、華麗に突破しようと思う。
「少し離れたまえ」
私は所長を後ろに下がらせると、両手を合わせて打ち鳴らした。
教皇は宮殿に潜伏している。
きっと現在も私達のことを監視しているはずだ。
そんな彼にとびきりの挨拶を見せようと思う。




