第66話 錬金術師は戦争を加速させる
その日から陣取り合戦が本格的に始動した。
周辺諸国は連合軍を結成し、絶えず王国に侵略行為を繰り返している。
私の結界で大型兵器の大半が無効化されるも、一部は結界を貫いて飛び込んでいた。
神や使徒の類が関わっている分だろう。
私も感知できる範囲で対処したが、被害はそれなりに出ている。
幾多もの戦いを経て、王国軍にも死者が続出していた。
連合軍の歩兵は権能で強化されており、さらには使徒が兵士の中に混ざっている。
常人が敵わないのは当然であった。
現代兵器があろうと関係ない。
無視できない被害を受けて、すぐに女王から救援要請が発せられた。
このままでは王国が滅亡するということで、私も新たな策に打つことになった。
まず敵味方を問わず戦死者を集めて、肉体構造を改竄した。
さらに疑似人格を植え付けることで従順な人間兵器に仕立て上げた。
レイモンドやクアナの時と同じ要領である。
さらに各地に出没する使徒を私のもとまで強制転移させると、抹殺して同様に改造した。
これによって王国側の戦力を大幅に補充し、形勢の逆転へと繋げていった。
実を言うと、あまりこういったことはしたくない。
反則じみた能力で、戦争の面白味を薄めてしまうからだ。
しかし、聖教国は神界から戦力を調達しており、神の力を存分に発揮していた。
このままだと敗北は必至のため、やむを得ず大きく干渉する羽目になった。
そんなある日の午後。
神界に侵蝕性の劇毒を送り込んだ私は、女王の私室を訪問した。
多忙を極める彼女は、書類の山を相手に激闘を繰り広げている。
いつもより疲れているように見えるのは、気のせいではないだろう。
武闘派の彼女は、終わらない書類仕事に消耗している。
各地で常に戦闘が起きているせいで、トップに立つ女王は様々な処理を行わねばならない。
端的に言ってとても大変そうだった。
手伝えればいいのだが、生憎と私は書類仕事が苦手だ。
基本的に面倒なことはしたくない。
これまでに提出を要求された始末書等の書類も、すべて所長に押し付けていた。
彼女の肉体を少し強靭にすることくらいしかできない。
入室した私は、山積みになった書類を手に取りながら話しかけた。
「君は戦場を駆ける方が似合うと思うがね」
「立場が許さない状況だ。お主のおかげでな」
女王が皮肉を述べる。
痛烈な口調だった。
さすがに恨まれているようだ。
それも仕方ない。
いきなり周辺諸国と全面戦争になったのだ。
加えて神々までもが敵対している。
いくらなんでも文句の一つでも言いたいところだろう。
そんな女王の視線を流して、私はソファに腰かけた。
葉巻を吹かして味わいながら、女王の仕事ぶりを眺める。
室内はしばらく沈黙が続いた。
途中で手を止めた女王がこちらを見て尋ねる。
「何をしに来た?」
「女王の尽力を見学しようと思ってね。気にせず作業に集中したまえ」
私が促すと、女王はため息を洩らした。
所長ほどではないが、彼女もなかなかの苦労人である。
現代とは煩雑なことが多い。
長き時を生きてきた私ですら、素直に同情してしまうほどであった。




