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第63話 錬金術師は罠を受ける

 顔面を激痛が貫いた。

 肉の裂ける音がして視界が潰れる。

 爆風と破片に目をやられたのだろう。


 一瞬遅れて全身に痛みが走り、浮遊感に襲われた。

 短距離を吹き飛ばされて、後頭部をどこかにぶつける。


 ほどなくして、身体を揺り動かされる感触がした。

 私は床の体積を借りて鼓膜を再生させる。

 するとすぐそばから声がした。


「ルドルフ様! 起きて下さい、ルドルフ様ッ!」


 所長だった。

 爆発が直撃した私を、必死で目覚めさせようとしている。

 かなり焦っているのは声音から明らかだった。


 私は瞬時に再生し、半壊したバルコニーの端で上体を起こす。

 所長の腕を掴み、揺さぶるのを止めさせた。


「そんなに叫ばなくとも聞こえているよ。老人扱いしないでくれたまえ」


「よ、よかった……」


 所長は露骨に安堵する。

 彼はもう引き返せない立ち位置にいた。

 ここで私に死なれると、色々と面倒な状況に陥る。

 だから大慌てで起こそうとしていたに違いない。


 立ち上がった私は、スーツの損壊を修復しながら微笑する。

 そして血の付いた髪を掻き上げた。


「私は不死身だ。これくらいで息絶えるわけがない。そろそろ慣れるべきだと思うがね」


「そう簡単に慣れるものではないのですが……」


 所長は胸を撫で下ろしながらぼやく。

 確かに彼の言う通りかもしれない。

 目の前で誰かが爆散する光景は、なかなかにショッキングな場面だったろう。


 所長は特に小心者である。

 こういった突然の事態に弱い。


 私は室内に所長を招いて話を続行することにした。

 ソファに腰かけながら彼に問いかける。


「ところで、今の爆発は君の仕業かね」


「えっ」


 所長が虚を突かれた顔をする。

 自分が何を言われたのか理解できていない。


 私は大げさにため息を吐くと、葉巻をくわえながら嘆いてみせた。


「残念だよ。まさか君に裏切られるとは。これでも贔屓にしていたつもりなのだが……」


「い、いやいやいや! 私は、決して、何もしておりません! ルドルフ様を裏切るなどという真似は絶対に……ッ!」


 所長が激しく震えながら釈明する。

 フロア全体に響きそうな大声だ。

 彼は涙目で私の脚に縋り付いてくる。

 制裁されるとでも思っているらしい。


 その姿を目の当たりにした私は思わず笑う。


「取り乱しすぎだ」


 私は所長の動きを停滞し、怯える彼を浮遊させた。

 そのまま目の前に真っ直ぐ立たせた。

 私は所長に言い聞かせるように告げる。


「ただの冗談だよ。君のことはもちろん信頼しているとも。此度の爆発と無関係であることは知っている」


「は、はああぁぁ……」


 所長は心の底から安心した顔で、その場にへたり込んでしまった。

 よほど恐怖していたのだろう。


 私がつまらない推論で所長を殺すはずがない。

 命とは尊いものだ。

 私ですら完全な復元はできない。

 神格の類はともかく、人間は大切にしなければならない。


 私はバルコニーに残された端末の残骸を指差す。


「爆発は教皇の仕掛けた罠だ。あわよくば仕留めたかったのだろうが、これは嫌がらせの類だろう」


「なるほど……しかし、方法が判然としません。事前の確認では映像に異常はなく、端末もこの国のものです。何者かが、爆発する端末と入れ替えたのでしょうか」


「そんな面倒なトリックはない」


 私は所長の指摘に首を振った。

 そして、既に判明している答えを告げる。


「教皇は映像に権能を仕込んでいた。それによってリアルタイムの会話を披露し、私を爆破したのだ」

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[一言] > 命とは尊いものだ。 これも冗談カナ?
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