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第61話 錬金術師は教皇から提案される

 脳裏で先ほどの戦闘機の構造を反芻していると、室内から所長がやってきた。

 板状の端末を持つ彼は、少し息を切らしている。

 ここまで急いで来たらしい。

 所長は呼吸を整えながら話しかけてきた。


「ルドルフ様、ここにいらしたのですね」


「やあ、ラギゴルー君。ちょうど自身の無力さを嘆いていたところだよ」


 私は苦笑し、直近の悩み事を吐露する。

 同情してくれるかと思いきや、所長は不思議そうな顔をした。


「私はグレゴリーです。それより無力とは……?」


「時代遅れの魔術しか使えないということだよ」


「は、はぁ……」


 所長は気の抜けた相槌を打つ。

 私の言いたい内容が伝わっていないようだ。

 彼はこれまでの戦闘を散々に目撃してきた。

 原初の錬金術師が、古代の能力しか使えないと知っているはずだった。


(なぜ理解できないのだろう)


 疑問に思う私だったが、すぐに答えを察する。

 所長からすると、私は無敵に近い存在だ。

 最先端の技術が使えないことが悩みになるとは思えないのだろう。


 実務上、困ることがないのは確かだが、そういう話ではなかった。

 何億年も同じ戦い方というのは、あまりにも芸がない。

 試行錯誤は繰り返しているとは言え、もう少し劇的な変化がほしかった。

 現代人を見習っていきたい所存である。


 そこで思考の脱線を自覚した私は、所長に話題を切り出す。


「ところで、何か私に用事があったのではないかね」


「そ、そうでした。こちらをご覧ください」


 所長が端末を私に見せてくる。

 そこには黒い画面があり、何も映っていない。

 私は眉を寄せて注視する。


「何だね」


「教皇からルドルフ様宛てに映像が届きました」


「ほう」


 この端末は、確か映像記録を閲覧できる代物だ。

 昔なら一部の者しか使えないような稀少技術である。


 それにしても、教皇からのメッセージとは面白い。

 関心を向けるに値する報せだった。


「それは内容が気になるな。ここで再生したまえ」


「分かりました」


 頷いた所長が端末を起動させると、記録された映像が流れ始める。

 黒一色だった画面が切り替わり、椅子に座った初老の男が映った。


 金の刺繍が入った白い服と、鋭い眼光を放つ瞳。

 重苦しい表情の男こそ、聖教国の頂点に君臨する教皇であった。

 城の資料にて人相は確認済みなのですぐに分かった。


 こちらを見つめる教皇アワードは粛々と話し始める。


『ルドルフ・ディア・アーチサイド。私の挨拶は気に入ってくれたか』


「実に愉快だった。感謝するよ」


 私は友人のような口調で返答する。

 これが過去の映像と知りながら、あえて反応した。

 せっかく私にメッセージを寄越したのだ。

 黙って視聴するのは、少々無粋だろう。


『突然だが、貴様に一つ提案がある』


「ふむ。何だろうな」


 私は所長に意見を求めるも、彼は曖昧な顔で首を捻るばかりだった。

 不安がっているのは確かだ。

 何か嫌な予感がしているのだろう。

 それを肯定するかのように、アワードは本題に入る。


『王国と連合軍を使って、陣取り合戦を開催したい。私と貴様――どちらか一方が死ぬまでだ』

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