第60話 錬金術師は現代魔術を評価する
戦闘機とは、現代にて開発された飛行兵器だ。
鋼鉄の塊でありながら、空を高速で飛び回る代物である。
鳥のような翼を持ち、弾丸やミサイルを発射できる。
その性能に関する逸話については、城の兵士から聞いたことがあった。
数十年ほど前、地中深くに眠る竜が突如として目覚めたらしい。
現代の魔物は衰退しており、主に人間同士の争いばかりが起きている。
そのような折に竜が出現したのだ。
当然、国内はパニックに陥った。
そこで戦闘機の部隊が出撃し、犠牲を払いながらも竜を撃破したそうだ。
竜は生物の中でも最強格に位置する。
それを人類は技術で凌駕したのである。
ごく少数の英雄がやったのではない。
兵器に乗る一般人が達成したのだ。
驚くべき偉業と言えよう。
当時の戦いから十年が経過している。
兵器類はさらに進化し、超遠距離へのミサイル攻撃も可能となった。
もはや竜の群れすらも容易く屠れる時代である。
人間の技術力とは本当に凄まじい。
幾多もの時代を見てきた身としては、畏敬の念すら覚える。
(それにしても、どうやって領土内に戦闘機が……)
接近する戦闘機を見て私は訝しむ。
あの型は王国の所属ではない。
しかし結界を張ってあるので、他国から侵入はできないはずだ。
唐突に反応が現れたことを考えると、おそらく高度な転移魔術を使ったのだろう。
どうやら私の結界では防げない系統らしかった。
そう、私の能力は決して完璧ではない。
現代の魔術と噛み合わない時がある。
なるべく調整しているが、こういった時に素通りされるのだ。
少し悔しがっていると、戦闘機が爆弾を落とした。
城下街に爆撃を食らわせるつもりらしい。
あの爆弾の威力では街が消し飛ぶだろう。
どこの国かは知らないが、大胆な作戦を選んだものだ。
「まったく……」
私は両手を合わせて、落とされた爆弾を圧縮する。
そのまま炸裂する前に球体のエネルギーに加工した。
まるで太陽のように輝くそれを操り、戦闘機にぶつけて粉砕する。
爆発した戦闘機が、炎に包まれながら墜落していく。
ばらばらに破片を飛ばしながら城下街へ降り注ごうとする。
私はそれらをまとめて圧縮して手元に引き寄せた。
鋼鉄の残骸が、豆粒ほどのサイズとなって手のひらの上に出現する。
握り込んでから手を開くと、残骸は跡形もなく消えていた。
私は騒然とする街並みを傍観しながら考える。
現代の魔術はそれなりに解析した。
理解も深めているが、各方面の専門家と比べると足元にも及ばない。
我ながらそこまで賢くない。
現代の魔術は、私の知るそれとは別次元の分野であった。
似たような現象の発現は簡単であるものの、完全再現はほぼ不可能だ。
まったく新しい進化を遂げている。
(時代遅れの魔術師とは、悲しいものだな……)
私は小さく嘆息する。
別に落ち込むわけではないものの、時代の流れを感じてしまう。
置き去りにされている感覚があった。
せめて最新機器の一つや二つ、難なく使いこなしたいものだ。




