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第59話 錬金術師は全面戦争を楽しむ

 教皇による声明以降、戦争の日々が始まった。

 連合軍の結成に賛同する国は多数おり、彼らはさっそく同盟や条約を結んでいった。

 本来ならばありえないほどにスムーズなのは、各国の上層部が私の所業を把握しているからだろう。

 原初の錬金術師ならば、本当に世界を滅ぼしかねないと考えているのだ。

 私という存在が抑止力となり、皮肉にも国家間の敵対関係を解消していた。


 周辺諸国にとって連合軍というアイデアは理想だった。

 一国で王国に仕掛けるのはリスキーだ。

 侵略にあたって多大な犠牲を払わねばならず、見返りも回収できるか定かではない。

 最悪、戦争を経て国力が弱るだけというパターンも考えられる。


 ただし連合軍ならば話は別だ。

 立ち回り次第では、損害を他国に押し付けることができる。

 弱小国に対して資源や戦力を要求することも可能だった。

 平和のためと名目を掲げれば、多少の横暴は許される。

 あわよくば私を殺害することで功績だけを掠め取れる。


 彼らも一枚岩ではない。

 表向きは団結しつつ、水面下では熾烈な利権争いを繰り広げている。

 それについては、王国の密偵から様々な情報を聞いていた。

 例を挙げるときりがないが、随分と愉快なことになっているらしい。

 共通の敵を前に、自滅するのではないかと心配になるほどだ。


 人間とはとことん欲深い。

 破滅に直結すると知りながらも、衝動を抑えられない時がある。

 そういった部分は嫌いではなかった。

 むしろ好きだと言ってもいい。


 人間の愚かさとは、ともすれば喜劇にもなり得る。

 いつの時代でも私を笑わせてくれる。


 さらに欲深い性根は、時に凄まじい力を発揮する。

 英雄すらも生み出すほどのパワーとなるのだ。

 良い意味で期待を裏切ってくれるから、つい傍観を楽しんでしまう。


 意図しない展開だが、此度は世界を大きく掻き乱すことになった。

 人類がどのような出来事を見せてくれるのか、実に楽しみである。


(現代はやはり退屈しないな)


 城のバルコニーに立つ私は、葉巻を味わいながら微笑む。

 時刻は深夜だが、城内は大忙しだった。

 兵士が昼夜問わず駆け回っている。

 王国領土には私が結界を張っているが、それでも他国との戦争に向けて休む暇がないのだ。


 今のところ本格的な殺し合いは起きていない。

 精々、各地への戦力派遣くらいだろうか。

 兵士達は、侵攻を企む他国の軍や聖教国と合流しようとする勢力を妨害している。


 私はあまり介入していない。

 やりすぎると影響が大きすぎるためだ。

 ほどほどに王国を支援しつつ、状況の移り変わりを楽しんでいる。


「ん?」


 城下街を眺めていると、異音を耳にする。

 夜空の彼方を飛ぶ物体が見えた。

 私は目を凝らす。

 高速で接近するのは、漆黒のボディの戦闘機であった。

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