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第58話 錬金術師は宣戦布告を歓迎する

 私の感想を聞いた所長は、少し驚いているようだった。

 目を何度か瞬かせると、彼は意外そうに私を見やる。


「お怒りにはならないのですか……?」


「教皇の主張は的外れではない。今回の私は品行方正だが、本来は破壊の化身だからね」


 私は何度も文明を塵にしてきた。

 神々を含む様々な種族を殺戮し、世界を絶滅寸前にまで追いやってきた。

 人類最悪の敵と評されても反論できない。

 こちらとしては素直に肯定するしかなかった。


 教皇アワードは私のことを散々に罵倒したが、いずれもあながち間違いではない。

 むしろ正確に表現しており、現代の人々の危機感を煽っていた。

 実に賢明な判断だと思う。


 ただ唯一、女王を傀儡と断じた点は無視できない。

 それについては訂正したいところだ。


「こういった挑戦は大歓迎だ。良い退屈しのぎになる」


 録音機を外に持ち出すレイモンドを見つつ、私は悠々と述べる。

 皮肉ではなく本音からの言葉であった。

 正面切っての挑戦など、なかなか受ける機会がない。

 誰もが臆病になって控えてしまうためだ。

 最強を自負する神々ほど、そういった傾向にあった。


 しかも今回の挑戦は規模が大きい。

 周辺諸国を巻き込んだ戦争に発展しそうだった。

 想像するだけで楽しくなってしまう。

 思い切った行動に出た教皇に感謝したいくらいであった。


「一致団結した国々が巨悪に対抗する。実に素晴らしい構図ではないか」


「やはり戦うのですね……」


「もちろんだとも。これほどの好機だ。みすみす逃す手はないだろう」


 その気になれば、戦争を回避することもできる。

 しかし、これはせっかくのチャンスだ。

 私は元より戦争を利用して世界を育むつもりだった。

 現状は思うように情勢が流れつつある。

 ここは便乗するのが一番だろう。

 何も不都合はない。


 私は立ち上がると、葉巻を仕舞いながら部屋の出口へと向かう。


「そうと決まれば、さっそく女王と打ち合わせをしなければいけないな。連合軍を歓迎しようではないか」


「あの、ルドルフ様」


 ドアノブに手をかけたところで、所長に呼び止められた。

 所長は今にも卒倒しそうな顔色をしている。

 心配事が増えすぎたせいだろうか。

 身を案じたクアナに背中を擦られている。


 そんな状態でありながら、私に言いたいことがあるらしい。

 所長がこれだけ頑張っているのだ。

 無視するわけいくもいくまい。


 足を止めた私は所長に尋ねる。


「何かね」


「この世界は、滅びませんよね……?」


 怯える所長が慎重に確かめる。

 最悪の未来を、本気で恐れているようだった。

 半ば懇願に近い眼差しをしている。

 何を祈っているかは考えるまでもない。


「…………」


 私は無言で考える。

 十分な間を置いた後、含みのある微笑を湛えてみせた。


「加減を誤らないように注意しよう」

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