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第56話 錬金術師は奇報を耳にする

 それから数日間、私は全面戦争に向けての下準備を進めた。

 具体的には王国領土を囲うように特殊な結界を張った。

 完全に隔離すると問題があるので、ミサイル系統の兵器や魔術攻撃が侵入できないようにしておいた。

 これで外部からの攻撃は遮断できるだろう。


 半日でそれを仕上げた私は、空いた時間で他国を迎撃していく。

 密かに侵略の計画を進める彼らを妨害してやった。

 加減を誤って壊滅させることも何度かあったものの、致命的なミスではない。

 王国の脅威はしっかりと伝わったはずだ。


 これで周辺諸国も迂闊な行動には出なくなると思われる。

 女王は頭を抱えながらも私に感謝していた。

 家臣として順調に活躍できているようだ。


 そんなある日、私のもとに報告が来た。

 これまで沈黙を貫いてきた聖教国が、ついに声明を発したらしい。


 伝令の兵士が、件の声明を録音した箱型の機械を部屋に運んできた。

 テーブルを占領する程度のサイズのそれを、レイモンドがセッティングしていく。

 私は心を躍らせながら作業を見守る。


「しかし過去の声を気軽に聞けるとは、素晴らしい技術だな」


 魔術にも類似する効果はあるが、やはり稀少だった。

 このように使える代物ではない。

 その点、現代技術は実に多様かつ便利である。

 一般の兵士に行き渡るレベルで高度な文明が構築されていた。

 結果的に人々の生活を豊かにしている。

 世界を育むとはこういうことなのだと実感させられる。


 やがてレイモンドが作業の手を止めた。

 どうやら準備が完了したらしい。


「始まります」


 レイモンドの指がスイッチを押すと、録音機の再生が開始した。

 何かが擦れるような音が鳴り、ほどなくして掠れた声が聞こえてくる。


『各国の人々よ。私は聖教国の教皇アワード・シン・ネアルソンだ』


 不遜な男の声だ。

 聞き覚えはなく、傲慢な性格が滲み出ている。


 腕組みをした私はレイモンドに視線を投げた。


「誰だね」


「聖教国のトップです」


「ふむ」


 教皇の地位は知っていた。

 確認の意味で尋ねたが、間違っていなかったようだ。

 女王から帰還命令が出ていなければ、今頃は既に出会っていたであろう人物である。


『世界は今、滅亡に瀕している』


 教皇アワードは深刻そうに切り出す。

 彼の言葉を聞いた私は、思わず苦笑した。


「滅亡だと? そんなことはないだろう。君もそう思わないかね」


「ど、どうでしょう。ははは……」


 所長はぎこちなく笑う。

 本音は知らないが、私とは意見が異なるらしい。


 こちらのやり取りをよそに、機械は過去の声明を再生し続ける。


『諸悪の根源は王国に潜んでいる』


「面白い推理だな。根拠はあるのだろうか」


 王国内部は私が調査している。

 現在、妙な存在は隠れていなかった。

 神格や使徒の類も、石像となった守護神のみだ。


 他は早い段階で逃亡していたらしい。

 だから国内に怪しい人物はいないはずだ。

 少なくとも諸悪の根源と称するだけの存在はいない。


 該当者が分からず頭を悩ませていると、アワードは答えを述べた。


『その名はルドルフ・ディア・アーチサイド――奴が滅びの起源であり、人類最悪の敵だ』

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― 新着の感想 ―
[一言] > 該当者が分からず頭を悩ませていると え、マジで?自覚ないの? 女王陛下も所長さんも、じっと見てるよルドルフさん…
[気になる点] 今話ラストに教皇とやらが吐いた台詞に、ルドルフ殿はどう反応するのか? 爆笑? それとも、落ち着き払って「心外な」といった類の言葉を発するのか? [一言] 今話もありがとうございます!…
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