第54話 錬金術師は女王に問う
「女王、君はどうするつもりなのだね」
私は質問を投げる。
ここで女王の真意を見極めるつもりだった。
何と答えようと従うことには変わりないが、個人的には覚悟を見せてほしい。
女王は私の視線を受けながら黙る。
長々とした静寂が訪れた。
私は口を挟まずに待ち続ける。
その双眸が強き意志を帯びると同時に、女王は答えを出した。
「――全面戦争だ。そなたには防衛を任せたい」
「ほう」
私は微笑する。
女王に動揺は見られない。
それを実行すると心に誓った者の面構えだった。
「原初の錬金術師ルドルフ。そなたを味方に付けたことで世界は荒れようとしている。ならば、そなたを使って覇道を往くのが道理だろう」
女王は当然とばかりに述べる。
高圧的な態度だが、そこには確かな気品があった。
王の名に相応しい風格を備えている。
自らでは決して敵わない災厄を前にしながらも、堂々と命じられる精神力を彼女は保っていた。
普通ならば多少なりとも態度を改めてしまうものだ。
しかし女王は、一切の妥協をしていない。
互いの上下関係を突き付けるような冷徹さである。
拍手を送りたいくらいほどに清々しかった。
(良い。実に良いぞ)
私は歓喜するも、それを抑えて確認を優先する。
「君の選択によって多大なる死者が出ることになる。それも覚悟の上かね」
「無論だ。そうでなければ、規格外の怪物を配下にしようとは思わん」
女王は私の言葉を一蹴する。
まさしくその通りだ。
何の反論もない。
ここでつまらない返しが来れば興醒めだった。
そこは彼女も弁えているらしい。
確認を終えた私は手を打ち鳴らした。
玉座の女王へと歩み寄っていく。
「最高の答えだ。君の考えを尊重しよう」
私は女王の前で跪いた。
満足したところで立ち上がり、スーツの襟元を正しながら言葉を続ける。
「安心したまえ。私の手にかかれば、どんな敵であろうと塵芥も同然だ」
「……そなたの場合、誇張表現でないのが恐ろしいな」
女王はため息混じりに苦笑する。
全身に込められた力が少し緩んでいた。
さすがの彼女も緊張していたようだ。
それを感じさせない胆力がまた素晴らしい。
「繰り返すが、そなたに任せたのは防衛だ。そこだけは忘れるな」
「もちろん分かっているさ。この国は私が守護してみせるとも」
私は女王の念押しに頷く。
そして、軽やかな足取りで謁見の間を退室した。




