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第53話 錬金術師は一時帰還する

 私は兵士の報告に考え込み、その意味を反芻する。

 口元が緩みそうになったので力を込めて堪えた。


「宣戦布告か」


 複数の国々が王国に仕掛けようとしているらしい。

 この時期に示し合わせたように表明するとは不自然だ。

 考えるまでもなく私が関与しているのだろう。

 詳しい話を聞きたいところだが、兵士には端的な情報だけが入ってきたらしい。


 所長が心配そうに私を窺ってくる。


「ルドルフ様、どういたしましょう……」


「もちろん帰還するとも。他ならぬ女王の命令だ」


 せっかくここまで来たのだから、聖教国の首都に攻め込まないのはもったいない。

 しかし、今の私は女王の配下である。

 ここで命令に背いて私欲を優先するのはナンセンスだろう。

 彼女との決闘を侮辱することになる。


 その気になればいつでも訪問できるのだ。

 宣戦布告の件も気になるので、ここはすぐに戻るべきである。

 過去の私ならまずしないであろう行動だが、これも人々を愛する一環だ。

 たとえ迂遠だろうと義理は果たした方がいい。


 そこで私は、ふと思考を中断する。

 空の彼方を注視して、喜色を隠さずに呟いた。


「おっと、別れの挨拶が来たぞ」


 視線の遥か先で、雲を雲を突き抜ける物体があった。

 燐光を噴出しながら飛来するのはミサイルだ。

 人工精霊を燃料とする聖教国の殺戮兵器である。

 弾道からして、明らかに私達を狙っていた。


 ミサイルに気付いたレイモンドがすぐさまライフルを構える。


「迎撃しますか」


「いや、私がやろう」


 レイモンドを手で制した私は、目視でミサイルの構造を確認して指を鳴らした。

 その瞬間、ミサイルは軌道を反転させた。

 ついでに推進力を倍増させて発射地点へと打ち返す。


 仕上げとばかりにミサイルの内部を改竄し、着弾時に人工精霊を暴走するように細工しておいた。

 これで私達を爆殺しようとした軍事施設は跡形もなく吹き飛ぶことになる。

 さぞ愉快な光景だろうが、残念ながら目撃する余裕はない。

 構造は記憶したので、類似品を王国で製造させればいいだろう。


 その後、私達は王国に帰還する。

 最短距離で移動したので、大して時間はかからなかった。

 さらに各車両を私が加速し、障害物を蹴散らしたのも大きかっただろう。

 王都に到着したところで、私はさっそく一人で謁見の間に赴く。


「やあ、宣戦布告されたそうだね。王国も立派になったじゃないか」


「そなたの存在が主な要因だと思うが……」


「謙遜することはない。君の采配が招いた事態だ。誇るといい」


 玉座に腰かける女王の小言を流し、彼女を称賛する。

 女王は難しい顔をするも、文句は言わない。

 無駄だと悟っているのだろう。


「それで、詳しい経緯を聞かせてくれるかな」


 私が促すと、女王は気を取り直して説明する。


 曰く、周辺諸国は王国を危険視しているようだ。

 きっかけはもちろん聖教国での出来事である。

 各国は密偵を使って把握していたのだ。

 或いは神託を受けたと主張する国もあるという。

 どこかの神が私の存在を感知して警告したのかもしれない。


 王国と水面下で同盟を結ぼうとする国がある一方で、大々的に開戦しようとする国も多いそうだ。

 たった数日だというのに、大陸全土が大きな混乱に見舞われているらしい。


「情報が早いな。昔とは大違いだ」


 現状を聞いた私は感心する。


 休眠前にも遠話の魔術があったが、あれは珍しい能力だった。

 遠くに情報を届ける手段は、総じて限られていたのだ。


 ところが現代では通信技術が発達している。

 遠隔だろうと手軽にやり取りできる。

 知識としては学習していたものの、こうして実感できる状況に身を置くと改めて驚いてしまう。

 現代の戦争とは、情報の戦いとも言えるのかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >仕上げとばかりにミサイルの内部を改竄し、着弾時に人工精霊を暴走するように細工しておいた。 >これで私達を爆殺しようとした軍事施設は跡形もなく吹き飛ぶことになる。 >さぞ愉快な光景だろうが…
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