第52話 錬金術師は報を受ける
(いやはや、愉快だな。からかい甲斐がある)
息を吐いて安堵する所長を見て、私は自然と微笑む。
そろそろ慣れてもいい頃だが、彼は根が常識人であった。
やや増長する性質があるものの、基本的に線引きを徹底している。
私の能力もよく理解しており、とにかく死なないように奔走していた。
そして逃げられないことも悟っている。
だから従順な言動を取っていた。
結果として所長は長生きしている上、念願の大出世を遂げている。
そういった意味では、かなり幸運なのではないだろうか。
我ながら好き嫌いは極端である。
寛容ではあるが、波長の合わない人間をそばに置くほど優しくはない。
その点、所長は実に良い性格をしている。
実務面での働きは微塵も求めていない。
彼の場合、ただ素直な言動を披露してくれれば満足だった。
所長もそれだけで見返りが得られるのだから、互いに得をしている。
素晴らしい関係と言えよう。
精神的な負荷で所長の寿命が縮まっているのかもしれないが、その時は私が延長できるので問題ない。
彼が希望するなら、悠久の時を生きてもらうことも可能だ。
いずれ提案してみようと思う。
戻ってきたレイモンドを連れて、私達は街の外に出る。
その足で王国からの同行者達のもとを目指す。
聖教国の軍事力も概ね把握できた。
いずれも私の道を阻めるほどではない。
レイモンドとクアナだけでも十分だろう。
あと三日ほど移動すれば首都に着く。
そこにレイモンドや使徒を派遣した神がいる気がする。
何度も奇襲を仕掛けてくれた礼をしなくてはならなかった。
そして捻り潰す。
向こうはそれなりに高位の神格のようだが、私には関係ない。
精々、期待に応えられるだけの抵抗を祈るばかりだ。
ここまで地道に刺客を送り、記憶隠蔽で正体を誤魔化してきたのだ。
半端な実力であっけなく死なれると興醒めである。
失望のあまり、神界に八つ当たりしてしまうかもしれない。
まあ、そうなったところで困るのは私ではなかった。
ストレスを抱え込む方が問題だ。
神々の価値など考慮に値するほど大きくない。
少し数が減ったところで世界への影響は少ない。
数千年も経てば勝手に増えるのだから、むしろ間引きした方がいい。
街を出たところで同行者達と合流した。
彼らの顔は揃って暗く、今にも倒れそうな者もいた。
名目上は護衛だが、彼らは自分達が不必要だと理解している。
私としては彼らのリアクションを見るのが楽しいので、役立たずだとは思っていなかった。
もっと存分に反応してほしいものだ。
彼らの様子を眺めていると、兵士の一人が緊張した面持ちで発言する。
「ほ、報告があります!」
「何かね」
「……女王陛下からの通信です。周辺諸国より宣戦布告が為されたため、至急帰還してほしい、とのことです」




