第51話 錬金術師は隣国を荒らす
私達は今日も優雅に旅を続ける。
聖教国を順調に進行しており、現在はちょうど新たな都市部に辿り着いたところだった。
「主よ! すぐに邪魔者を片付けてきますッ!」
所長にそう告げたレイモンドが大きく跳躍する。
彼が空中でライフルを構えると、遥か遠くで複数の戦車が爆発炎上した。
因果律の改竄だ。
燃料タンクを撃ったという結果を引き起こしたのである。
落下してくるレイモンドは、その間にもライフルを連射する。
建物の陰に隠れた兵士達を次々と射殺していった。
反撃の弾は一発も当たらない。
レイモンドが的確な射撃で撃ち抜いているためだ。
ライフルは私が無限弾仕様にしているので弾切れも起こさない。
そして着地寸前、レイモンドの姿が消えた。
直後に別の地点で銃声と断末魔が響く。
着弾点に瞬間移動したレイモンドが暴れているのだろう。
その奮闘ぶりを眺めていると、近くの瓦礫から兵士が顔を出した。
兵士は雄叫びを上げて、こちらに向けた銃を乱射する。
「変わり映えのない奇襲だな。二十五点だ」
喋る私は平然と銃撃を受けた。
全身の数カ所に穴が開くも、すぐさま再生する。
このまま何万年と撃たれ続けようと死ぬことはない。
ちなみに横にいた所長も無防備だが、彼はただの一つも負傷していなかった。
足元の影から現れたクアナが拳の連打で防いだのだ。
片手に弾丸をつまんだ彼女は所長を一瞥する。
「大丈夫?」
「あ、ああ……」
動揺する所長は辛うじて応じる。
それに頷いたクアナは、つまんだ弾丸を頭上に弾いた。
彼女は落下してきた弾丸を殴る。
銃の何百倍ものスピードで放たれた弾丸は、乱射した兵士の額を粉砕した。
兵士は自らの死を認識できなかったろう。
それほどまでの早業であった。
兵士の死を見届けたクアナは無言で所長の影に沈む。
「ふむ、いいじゃないか。悪くない性能だ」
私は素直に感心する。
レイモンドとクアナの戦闘能力は飛躍的に向上していた。
生前から卓越した技能の持ち主だったが、それが見事に強化されている。
安全のため、王国からの同行者達は街の外に置いてきたが、彼らにも見せてやればよかった。
それほどまでに面白い成果が出ている。
今までは私が敵を排除してきたので、二人の活躍するタイミングが無かった。
しかし、こうして実力を目の当たりにすると、存外に便利であるのがよく分かる。
適当に命じるだけで国を滅ぼせそうだった。
「君だけの専属護衛だ。贅沢だとは思わないかね」
私は尻餅をつく所長に話しかける。
彼は、街の兵士が蹂躙される様を呆然と眺めていた。
レイモンドが単独で殺戮を展開している。
張り切っているのは、主人に有能な所を見せたいからだろう。
私の視線で我に返った所長は、掠れた声で礼を述べる。
「あ、ありがとうございます……」
呆けた所長の顔を、爆炎が赤々と照らしていた。




