第50話 錬金術師は所長を困らせる
護衛は死体を基に造っている。
白フードはトンネルで回収したレイモンド、黒髪赤目は女王の部屋で私の暗殺を試みた少女が素体となっていた。
後者に関しては、王国の地下に石像として保管してあった。
一旦、私だけが瞬時に帰還し、女王に許可を取ってから回収してきたのである。
ちなみに名前はクアナだ。
使徒としての名がなかったので所長が命名させたのである。
私はそれぞれの死体の構造を把握し、肉体に刻まれた記録から擬似人格を形成した。
少し弄っているので生前と差異はあるものの、培われた知識や技術はそのままに味方となっている。
ただし、記憶の一部が破損しており、二人に関わる神の正体は分からなかった。
私に読み取られることを危惧したらしく、細工が施されていたのだ。
記憶を復元できればよかったが、入念に隠蔽されていて不可能だった。
守護神の石像にもやはり同様の細工が為されていた。
私のやり方を知らなければまず不可能な対策である。
我ながら記憶の閲覧は得意ではないものの、正体が掴めないとは予想外だった。
首謀者の神はかなり用心深いようだ。
少なくとも隠蔽工作に関しては評価に値する手腕を持っている。
ただし、全体的な計画は粗末と言う他ない。
三つの記憶隠蔽を見たことで、一連の出来事に繋がりができた。
同一犯であることがほぼ確定し、だいたいの力量も分かった。
私の能力を欺けるほどの神格だ。
候補は自然と限られてくる。
ここまで絞られると特定もそう難しくないはずであった。
私としては、聖教国の中枢にいるのではないかと睨んでいる。
もしも間違っていた場合は、神界を無差別に腐蝕すればいい。
焦った他の神々が、きっと情報提供をしてくれるだろう。
もっとも犯人捜しは後回しである。
今は女王の命令に従うのが優先だった。
神なんて片手間に滅ぼせる。
些末な嫌がらせなど放っておけばいい。
そんなことより新しい護衛についてだ。
存在を改竄して所長の専属にしたのは、ちょっとした戯れであった。
普段から苦労をかけているので、ささやかなプレゼントを贈ろうと考えた次第だ。
二人ともかなりの実力者な上、生前の状態から大幅にパワーアップさせている。
たとえ私が不在だろうと、所長の安全は確約されたも同然だ。
相手が中位の神格でも屠れるだろう。
それだというのに、所長は先ほどから居心地が悪そうだった。
見かねた私は小言を洩らす。
「もう少し落ち着きたまえ。従者達も君を気遣っているではないか。主人たる者、如何なる時も堂々とするものだよ」
「その従者が気になるのですが……」
「まだ慣れないのかね」
「そう簡単に順応できるものではありません」
所長は涙目で弁明する。
相変わらず小心者であった。
野心がある割には臆病すぎるのではないか。
中途半端だから私のような存在に絡まれているのだ。
どうしようもない境遇には同情するも、彼の扱いを変えるつもりは特になかった。
これからも私を楽しませる要因として頑張ってもらおうと思う。




