第49話 錬金術師は贈呈する
トンネルを抜けた私達は、無事に聖教国へと踏み込んだ。
施設の兵士が逃げ出したので、入国チェックは難なくスルーできた。
そのまま聖教国内の移動を開始する。
何度か現地の軍隊から襲撃を受けたものの、残らず私が一網打尽にした。
特に記憶に残るような相手はいなかった。
加護持ちもおらず、手応えは皆無と言える戦いばかりだった。
どこの神が関与しているか定かではないが、さすがに数を揃えられるほどの余裕はなかったのだろう。
代わりに様々な兵器が投入されてきた。
中には広域を塵にするような殺戮兵器もあった。
無論、いずれも私が完璧に無力化した。
概ねの構造は理解できたので、王国に帰還したら一部技術を女王に伝えようと思う。
これから王国は多面的な戦争を強いられるはずだ。
戦力は今のうちに上げておくべきだろう。
なかなかに過激な行程ながらも、私達の損害はゼロだった。
実に順調な道のりである。
このまま聖教国の中央部へ向かう予定だった。
適当なところまで赴いて、私の力を誇示しようとするつもりだ。
そもそも今回はそれがメインの目的だった。
私の能力を周知させて、抑止力となるために入国している。
成果を考えると、既に達成できている気もするが、せっかくの国外旅行なのだからもう少し楽しみたい。
私を狙う神の正体を暴きたいと思う。
一方的に襲撃されるのにも飽きてきた。
そろそろ首謀者に挨拶してもいい頃だろう。
様々な思惑を抱きつつ、私達は聖教国を転々と移動していく。
そうして入国から七日目。
聖教国の田舎町の占領した宿屋の一室。
そこで私は紅茶を堪能していた。
この街の軍隊は既に殲滅してある。
通りかかっただけで攻撃してきたからだ。
無礼な行いには、同レベルの仕打ちがお似合いだろう。
住民が逃げようとしたので、現在は街ごと隔離してそれを阻止している。
ここは彼らの土地だ。
わざわざ捨て去ることはない。
私達は明日にでも出発するのだから、大人しく待っていてほしい。
外は見事にパニック状態だが、疲れたらいずれ沈静化すると思われる。
悲鳴や怒声を聞きながら、私は紅茶を飲み干す。
カップをテーブルに置いて、向かいのソファに座る所長に話しかける。
「どうしたのだね、ガリゴラー君。随分と落ち着きがないが」
「グレゴリーです。落ち着きがないのは、その……」
所長が言葉を濁す。
すると、彼の背後に一つの気配が出現した。
白フードを被るその男は所長のそばに跪いて、凛とした声で報告する。
「我が主よ。周囲に適性反応はない。安心せよ」
「……う、ううむ」
所長がぎこちなく頷いた。
そんな彼の足下でも動きがあった。
腰かける所長の影が歪んで蠢き、そこから黒髪赤目の少女が顔を出した。
少女は影の中から紅茶入りのカップを取り出すと、それを所長に差し出す。
「これ飲んで」
「あ、ありがとう」
所長は震える手でそれを受け取り、凝視する少女に怯えながら一気飲みした。
そこまで確かめた少女は、満足そうに影に沈んでいなくなった。
白フードの男は所長の背後に回って気配を消す。
(随分とにぎやかになったな)
私は一部始終を愉快な気持ちで眺める。
所長の世話をする奇妙な二人は、私が生み出した護衛であった。




