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第48話 錬金術師は妙案を閃く

 私は軍用車のドアを開けると、小さくなった座席に触れる。

 地面を経由して体積を送り込んで、元の大きさにまで復元しておいた。

 このままだと座り心地が悪い。

 道中を考えれば、やはり治しておくべきだろう。


 私は座席に腰かけながらドアを閉める。

 そして隣の所長に話しかけた。


「いやはや、良い相手だった。人間の可能性とは素晴らしいな」


「あ、あの……」


 所長が何か言いたげだ。

 顔色が妙に悪いが、それはいつものことである。

 彼は遠慮がちに質問をする。


「なぜこちらを狙って発砲を……?」


「大したことではない。射撃の具合を確かめただけだ。結果は散々だったが」


 私は苦笑混じりに答えた。

 あそこまで下手だとは恥ずかしい。

 努力以前の問題だろう。


 銃が扱えずに困ることはまずないものの、相手を華麗に撃ち殺すのはロマンだ。

 瓦礫を浮かせて叩き付けるのとはわけが違う。

 いずれ上手く射撃できるようになりたいがその道は遠い。

 今の腕前では、向こう三百年ほどは難しいのではないだろうか。

 その頃には別の武器が主流になっていそうだ。

 このままだといつまでも時代遅れになってしまう。


 遥か未来について考えていると、所長が確認をする。


「お身体は大丈夫なのですか?」


「もちろん平気だとも。完全に回復したよ」


 私は頷いて応じる。

 かなりのダメージを食らったが残らず再生している。

 被弾した加護の力も消去していた。


 基本的に私が不調を引きずることはない。

 所長もそれを分かった上で、念のために訊いたのだろう。


 脚を組んだ私は、トンネルの外に意識を向ける。

 兵士達はとっくの昔に離脱しており、施設はもぬけの殻となっているようだ。

 レイモンドを放置して逃げてしまったらしい。


 把握を終えた私は微笑する。


「聖教国は神と密接な関わりがあるようだ」


「危険な場所ですね……」


「そうでもない。私がいる限り、君が死ぬことはないだろう」


 私は断言し、不安そうな所長に向けて告げる。


「君は大切な補佐官だ。安心して同行したまえ」


「は、はは……ありがとうございます」


 所長は乾いた笑いを洩らす。


 ほどなくして、先頭車両が発進し始めた。

 トンネルの出口へと走っていく。

 私達の軍用車もそれに続く。


 先行する車両は、瓦礫とレイモンドの死体を避けて進んでいる。

 それを車内で見ていた私は指を鳴らす。

 同時にレイモンドの死体が消失した。


 めざとく気付いた所長が疑問を口にする。


「死体はどこに……?」


「後部トランクだよ。空いたスペースに収納させてもらった」


 私が後ろを指差すと、所長がぎょっとした顔になる。

 死体が積まれた事実を不気味がっているようだ。

 彼は小心者な上に心配性である。

 色々と想像を働かせて怖がっているのだろう。


 途端に落ち着きがなくなった所長は控えめに主張する。


「放置してもよかったのでは」


「必要だから回収した。一つ閃いたことがあってね」


 私は微笑を湛えて答える。

 所長は、嬉しそうに頬を引き攣らせた。

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