第47話 錬金術師は諦める
弾丸を受けたレイモンドが倒れる。
そこから起き上がることはない。
弾は彼の心臓を穿っていた。
常人であるレイモンドにとっては致命傷である。
完全に息絶えているようであった。
少しの間、私はその場からレイモンドを観察する。
何らかの加護で蘇ってくる可能性を考えたのだ。
実際、そういった能力は珍しくない。
変則型となるが、アンデッドとして強化された上で復活するパターンだってあり得る。
様々な展開を想像しながら待つも、結局レイモンドが蘇ることはなかった。
与えられた加護は、魔弾のみだったようだ。
ここから第二ラウンドが始まるのも悪くなかったが仕方ない。
大人しく勝利を受け取ろうと思う。
拳銃を下ろした私は、地面から体積を取り込む。
一瞬にして再生を果たして、スーツの端まで元通りとなった。
視界も明瞭となり、発声の不都合もなくなる。
「ふむ……」
全快した私は拳銃を見やる。
レイモンドの額を狙ったにも関わらず、実際は胸部に命中した。
上手く撃てたと思ったのだがそうでもなかったらしい。
能力で必中にした状態でこれだ。
確かに細かな狙いは誘導しなかったものの、自分の射撃能力の低さに笑ってしまう。
拳銃に不備があったのではないかと疑ったのだが、特に故障等は見当たらない。
完璧に復元されており、新品同然の状態である。
(私の下手すぎるだけか)
静かに悟りつつ、拳銃のシリンダーを横にずらした。
弾丸が残っていることを確認し、スイングで元に戻す。
拳銃を携えた私は後方を見る。
大型車の向こうに所長の待つ軍用車があった。
私はおもむろに拳銃を持ち上げると、軍用車を狙って連射する。
今回は何の術も使わずに弾丸を放っていく。
計五発の弾は、ただの一発も軍用車に当たらなかった。
地面や壁や天井に弾かれただけだ。
車内の運転手と所長が驚いているも、被害はないので気にすることはない。
「駄目だな」
やはり能力の補助がなければ使い物にならない。
戦闘技能が皆無な私だが、銃器があればそれなりに戦えるかと希望を持っていた。
しかし、それは大きな間違いであった。
前々から気付いていたが、私にはどこまでも才能がないようだ。
レイモンドのような射手に憧れたものの、彼に追いつける日は永遠に訪れないだろう。
拳銃を捨てた私は、少し落胆しながら軍用車へ戻った。




