第46話 錬金術師は弾丸を放つ
(瞬間移動か)
頭部を失った状態で私は理解する。
レイモンドはわざと射撃を当てなかった。
放った弾丸の座標に転移するための布石だったのだ。
(まだそのような能力を隠し持っていたとは……)
全身に次々と衝撃が走り、身体が軽くなっていく。
レイモンドによる全力の追撃だ。
弾丸の雨により、血肉が削り飛ばされているのである。
合間に再生阻害や、魔力の循環を乱す弾丸が混ぜられており、こちらの反撃や回復を封じるように意識していた。
一方的に有利な戦況にも関わらず、レイモンドは油断も慢心もしていない。
彼に加護を与えたのがどこの神かは知らないが、よほど念入りに忠告したのだろう。
(状況次第では、神殺しくらい成し遂げられるのではないか?)
無数の銃弾を浴びながら私は思う。
人間を相手に気を抜いて破滅する神格が数多く存在する。
レイモンドはそういった隙を突けるタイプだろう。
出力を限界まで下げているとは言え、私を圧倒できるのだ。
かなりの逸材に違いない。
残念ながら、正攻法では彼に敵わないと判明した。
予想通りの結果ではある。
本当は、互角の戦いを繰り広げたかった。
それを実現できなかったのは、純粋に私の力不足が原因だ。
私が弱すぎたせいであった。
レイモンドには申し訳ないと思っている。
私は神をも超える反則的な存在だ。
殺し合いの上では、間違いなく最強と言えよう。
それを確信しているし、純然たる事実である。
しかし、能力を制限した場合は定命の強者に負けるほどに脆弱だった。
女王との決闘の時もそうだった。
あの時は敗北までしてしまった。
人間は凄まじい底力を秘めており、私など軽く凌駕してしまう。
これが悔しい。
同時に狂おしいほどに嬉しかった。
人間の可能性を痛感させてくれる。
生きていて良かったと思わせてくれる。
「——感謝するよ、魔弾の射手よ」
私は発声器官を再生して伝える。
体内を蝕む加護の力は無視した。
このまま無言で反撃に移るのは、あまりにも礼を欠いている。
大切なことは、言葉にして伝えるべきだろう。
レイモンドの気配が大きく離れた。
至近距離にいると危険だと判断したらしい。
私はその間に片目を再生させた。
そして、トンネル出口の向こうから発砲するレイモンドを視認する。
(素晴らしい奮闘だ。その才覚を全否定するのが惜しくなる)
半ば骨だけとなった右腕を上げる。
足元に散らばっていた拳銃の部品が浮遊して、手元に集まってきた。
私の術に導かれて、拳銃が組み上がって復元していく。
そこにレイモンドの狙撃が飛来した。
手と拳銃が破壊されるも、私はそれ以上の速度で修復させる。
何も問題はなかった。
私は撃鉄を起こすと、銃口をレイモンドの額に定めた。
そこでゆっくりと引き金を引く。
私の放った一発の弾丸に、幾多の魔弾が衝突してきた。
しかし、弾丸は決して軌道を曲げずに直進する。
迎撃が不可能だと察したレイモンドは、続けて回避しようとする。
だが、それも意味は無い。
彼の付近の座標は既に改竄しており、どれだけ動こうと弾丸が直進して迫るように仕組んでいた。
角度的に無理があろうと、弾丸は曲がらずに直進してくるのだ。
矛盾した光景にレイモンドは驚愕する。
本来なら躱せるはずの射撃が必中へと昇華されていた。
超絶的な技巧で追加の銃撃を当てるも、弾丸は微塵も揺るがない。
そのまま吸い込まれるようにして、レイモンドの胸部を捉えたのであった。




