第45話 錬金術師は魔弾に挑む
私は周囲に散乱する瓦礫を浮遊させると、それらを同時に発射した。
レイモンドは寸前で回避していく。
どうしても避けられない分のみ、彼はライフルの射撃で破壊してみせた。
撃たれていない瓦礫がいきなり爆散するのは、因果律の改竄で"撃ち抜いた"という結果を引き寄せたのだろう。
ピンポイントで上手く使っているようだ。
(これにはどう対応する?)
私は損壊した片手を掲げると、勢いを付けて振り下ろす。
断面から鮮血が散ったところで、私はそこに干渉する。
ただ飛び散るだけだった血液に運動エネルギーを加えて、急加速を実現させた。
弾丸を遥かに超えるスピードを得た血液は、数百の粒となってレイモンドのもとへ殺到する。
対するレイモンドは、静かにライフルを構えた。
たったそれだけの行動で、加速した血液が弾けて消滅する。
ただの一粒もレイモンドに届くことはなかった。
再び因果律の改竄を行使し、すべての血液の粒を"撃ったことにした"ようだ。
(ふむ、なかなかやるな)
加護の出力を確かめてみたが、想定以上に上限が高く設定されているようだ。
或いはレイモンド自身の才能で引き出しているのかもしれない。
何にしても凄まじい男であった。
私が内心で称賛する一方、そのレイモンドに異変が生じた。
「――ッ」
片膝をついた彼が嘔吐する。
彼はなんとか立ち上がると、深呼吸を繰り返す。
鋭い目つきは変わらないものの、無理をしているのは明らかであった。
私は腕組みをして述べる。
「苦しいだろう。君も知っていると思うが、因果律の改竄は人間の身で実行するものではないのだよ」
ただでさえ負荷の大きい能力を、短時間でこれだけ連発したのだ。
本来なら死んでもおかしくなかった。
極度の消耗だけで済んでいるのは、レイモンドの強さによるところが大きいだろう。
私は前に進み出ると、努めて友好的に提案する。
「君が降参して私の部下になるのなら、中断してもいいのだがね」
「――ほざけ」
吐き捨てるように答えたレイモンドは、私に向かって発砲する。
放たれた弾丸は耳の横を通過していった。
(ん?)
私が避けたのではない。
レイモンドが意図的に外したのだ。
どういうことかと考える前に、唐突にレイモンドの姿が消えた。
そして、すぐ後ろに殺気が出現する。
「――ほう」
感嘆しながら振り返ると、口にライフルを突き付けられた。
数瞬後、銃声が鳴り響く。
頭部の破砕を知覚すると共に、視界が完全な闇に包まれた。
 




