第41話 錬金術師は所長を鼓舞する
私は左右の手のひらを合わせた。
そのまま滑らせるようにずらしていくと、間に一本の剣が出現する。
柄から切っ先までが結晶に近い質感で、淡い琥珀色をしている。
内部に灯る光が、静かに渦巻いていた。
これは即席の剣だ。
トンネル内で受けたダメージを寄せ集めて加工したものである。
言うなれば加護の塊であった。
稀少価値はそれなりにあるのではないだろうか。
まあ、使い捨てなのでどうでもいい。
「その剣で戦うのですか……?」
「まさか。私が剣士に見えるかね」
尋ねる所長に、私は肩をすくめて答えた。
生憎と剣技の才能は欠片も持ち合わせていない。
他の武術についても同様だ。
一兵卒どころか、三流のならず者にすら敵わないだろう。
素人未満と評しても差し支えない。
私の能力は、魔術師として極端に特化している。
これだけの時間を生きながらも、一向に上達しないのだ。
いくら鍛練したところで意味がないだろう。
その点に関しては開き直っている。
特に困ることもないので、これからも変わらないはずだ。
そして今回、剣を使うのはやはり私ではない。
私は意気揚々と所長を指差した。
「この剣を使うのは君だ」
指名を受けた所長は困惑する。
挙動不審に視線を散らせた後、彼は控えめに意見を述べた。
「いや、あの、剣技の心得はないのですが……」
「知っているとも。その上で頼んでいる」
私は平然と応じながら指を鳴らす。
所長の座る側の扉が開いて、隙間からトンネル内の闇が覗く。
まだ隔離は持続しているので、加護による攻撃は発動しない。
私は所長に剣を押し付けた。
「車外で振るだけでいい。それで事足りる」
「相手は加護を持つ相手なのですよね? とても敵わないと思うのですが」
所長はそれでも渋る。
私があれだけの攻撃を受けたのを目の当たりにしたからだろう。
車外に出た途端、自分も同じ目に遭うのではないかと怯えていた。
私は深々とため息を洩らした。
そうして優しい声音で、別の考えを提案する。
「そこまで嫌がるのなら仕方ない。君の生命力を破壊光線に変換して、襲撃者を薙ぎ払ってみよう。苦痛は一瞬だ。目を閉じて大人しくしていれば――」
「や、やりますっ!」
話の途中で、所長が車外へと飛び出そうとする。
即座に私は彼を保護し、隔離を抜けられるように細工した。
さらにあらゆる攻撃が剣に吸収されるように仕込む。
これで所長は一時的に無敵となった。
創造神だろうと彼を傷付けられない。
世界が滅ぶようなダメージだろうと、難なく受け切るだろう。
そうとは知らず、所長は勇敢にも車外へ転がり出た。
やけになった彼は顔面蒼白で叫ぶ。
「姿を見せない卑怯者めが! このグレゴリー・ハーライアが相手だああああああぁぁッ!」
剣を掲げた所長は、それを大きく振り動かす。
まるで洗練されていない刃の軌跡が、淡い光と共に空間を切り裂く。
そこから破壊の波が拡散し、闇に覆われたトンネル内を蹂躙していった。




