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第40話 錬金術師は懐かしむ

 所長が怪訝な顔をした。

 胸中に浮かんだであろう疑問を、彼はそのまま私に投げかけてくる。


「加護持ち……一体どういうことですか?」


「そのままの意味だよ。私を殺したい誰かは、神が由来の特殊能力を保有している」


 最初の攻撃を受ける直前、トンネル内に妙な力の気配が漂うことに気付いた。

 それは神力に似ていたものの、明らかに純度が落ちているようだった。

 例えるならば、女王の持つ再生能力が近い。

 すなわち神から与えられた能力――加護だと判断した。


 それらの考察を抜きにしても、私の肉体を破壊する攻撃は異常である。

 現代魔術の域を超えている。

 特殊な兵器を用いたとしても、その兆候があるはずだ。

 この状況で私だけを的確に破壊できるのは、やはり加護による能力と考えるのが妥当だろう。


 考察している間に、私の頭部が丸ごと破裂した。

 瞬時に再生させる一方で片腕が千切れ飛ぶ。

 すぐさま引き寄せて繋げたところで腹に複数の穴が開いた。


 襲撃者が躍起になって攻撃速度と威力を上げている。

 いつまでも死なない私に苛立っているのだろう。

 想像するだけで笑みがこぼれそうだ。


 私は愉快な気持ちになってそれに対応してみせる。

 ちょうど拮抗するような出力に調整しておく。

 体積を奪われた座席は随分と小さくなったが、車内には色々と荷物がある。

 再生には何ら支障がなかった。


 隣の所長は腕組みをして前方を睨む。

 薄暗いトンネルでは先行車両しか見えない。

 襲撃者らしき存在は見当たらなかった。


「聖教国にもそのような人物が……」


「トンネル内の空間を歪めているのは、ただの魔術のようだがね。色々と準備をしていたようだ」


 私は悠々と応じる。

 加護も魔術もそれなりに高度だ。

 常人が突発的に真似られるものではない。

 襲撃者は、私を始末するために入念な計画を実施してきたのだろう。


(この感覚は懐かしいな)


 不可視の攻撃には憶えがあった。

 弓矢を使った因果律の改竄だ。

 相手を"射抜く"までの過程を飛ばして"射抜いた"という結果を残すのである。

 過去に何度も食らってきたので馴染み深い。

 傷の具合からして、現代風に銃を使っているようだが、どちらにしても原理は同じだった。


 この能力は、加護の中ではポピュラーな部類であった。

 遠距離攻撃を好む神やその使徒が多用するためだ。

 必中を超える有用性を秘めており、基本的に防御や回避ができない。

 対策には特殊な工夫が求められる。


 因果律の改竄に能力のリソースを割いている関係上、威力はそれほど大したものではない。

 しかし、人体を破壊するだけのダメージはある。

 神や使徒が格下と戦う際に使う印象が強かった。


 いちいち防ぐのが面倒なので、私は昔からそのまま受けることが多かった。

 当たったところで大した被害はない。

 今のように再生すればいいだけだ。

 実を言うと、何の脅威にも値しない能力であった。


 此度の襲撃者は、どこかの神格から加護としてこの能力を授かったらしい。

 昔から使い手が多く、習得も容易なので相手の特定は難しい。


 まあ、襲撃者の正体なんてどうでもいい。

 そのうち判明するだろう。

 極端な話、判明せずとも困らない。


「私のことは気にせず進みたまえ。すぐに解決する」


「わ、分かりました」


 私が命じると、運転手は前を向いて集中する。

 先ほどからこちらを気にかけていた様子だったので、一言伝えるべきだと思ったのだ。


 この程度なら緊急事態とは言えない。

 他の者達にも被害がいかないのなら、尚更に楽であった。

 私は葉巻を吸いながら、襲撃者の攻撃を受け続ける。


 そうして被弾回数が七百を超えたところで、肉体の破壊速度が急に鈍化した。

 能力の連続行使により、襲撃者の負担が大きくなりすぎたのだろう。

 こちらに攻撃する余裕がなくなってきたようだ。


 一向に距離が変わらなかったトンネルの出口も僅かに近くなった。

 空間魔術も維持できなくなってきたらしい。


「ふむ、頃合いのようだね」


 そう判断した私は、車内を周囲から隔離した。

 車内を一つの世界として定義しつつ、初期状態として設定された法則を弄る。

 外部からの加護が届かないようにして、因果律の操作も無効にした。


 改竄が済んだと同時に、私への攻撃が止まる。

 それ以降は何も起こらない。

 襲撃者がこちらに干渉できなくなったのだ。

 今頃は焦っていることだろう。


 全身の損壊を修復した私は、嗜虐的な笑みを浮かべる。


「愉快な歓迎をしてくれるじゃないか。これは相応の礼をせねばならないね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >因果律の改竄 なるほど、今回の謎解きの正解はそれでしたか。 私の推理は見事に外れてしまいましたが。 >この能力は、加護の中ではポピュラーな部類であった。 >遠距離攻撃を好む神やその使…
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