第39話 錬金術師は襲撃を喜ぶ
突き飛ばすような衝撃を受けて、首が仰け反る。
その拍子に後頭部を座席に強打した。
「…………」
私は何度か瞬きをする。
額から熱い液体が流れてきた。
指でなぞると、ぬめるような感触がする。
見れば血が付いていた。
さらに指を動かす。
出血箇所である額に大きな穴が開いている。
「ル、ルドルフ様っ!?」
驚愕する所長が震えていた。
私を掴んで揺さぶろうとするので手で制する。
普段なら絶対にしない行動なので、よほど慌てているのだろう。
顔面蒼白の所長に微笑を返しながら、私は平然と応じる。
「この程度で動揺しすぎだ。私がやられると思うかね」
私は振り返って座席を確認する。
座席に破損はなく、飛び散った脳漿が付着しているだけだ。
次に私は、車内に視線を巡らせた。
異常な点は見当たらない。
動揺する運転手は、速度を緩めながらも車両を走らせ続けている。
彼の犯行ではないし、もちろん所長も関係ない。
どうやら車外から攻撃されたようだった。
「たかだか脳を破壊されただけだ。何の支障もない」
所長にそう伝えたところで、再び衝撃が走る。
今度は胴体が爆ぜた。
穴の開いたジャケットとシャツの奥が血みどろになり、大きな空洞ができる。
背中を浮かせて座席を確かめると、やはり穴は開いていない。
私の肉体のみが破損していた。
概ねの状況を把握した私は、肩をすくめる。
「心臓も破壊されたな。まあ、大差はないがね」
そんなことを呟いているうちに、さらなる攻撃が私を襲った。
全身が次々と破裂し、撃ち抜かれたような穴が増えていく。
撒き散らされた血肉が車内を汚していった。
慌てる所長や運転手に異常はない。
前後を走る大型車の中もきっと無事だろう。
私だけが謎の集中砲火を受けている。
これについては理由が明白だった。
現在進行形で私を攻撃する何者かは、隙を見せたくないのだ。
他者に狙いをずらした瞬間、私の反撃を食らうのではないかと警戒している。
凄まじい速度で原形を失っていく私を見て、所長が恐る恐る尋ねる。
「ほ、本当に大丈夫、なのですか……?」
「気にしなくていい。それより相手の素性が問題だ」
私は車内に散った血肉を吸収し、さらに座席の体積を少し使って回復する。
すぐさま破壊されるも、再生し続けることで勢いを相殺した。
攻撃速度を上回れば何も支障はない。
徐々に縮む座席にもたれつつ、私は悠然と笑みを湛える。
「襲撃者はどうやら加護持ちらしい。神の力を分け与えられているようだ」




