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第37話 錬金術師は目的地を伝える

「ところで、今からどこへ行くのですか?」


「知らないのかね」


 私が目を丸くすると、所長は言いにくそうに呟く。


「ルドルフ様が内緒だとおっしゃったはずですが……」


「そういえばそうだったな」


 楽しみとして取っておこうと思ったのだ。

 どうせ所長が嫌がることは予想できていた。

 万が一にも逃走されないため、意図的に公表せずにいたのである。


 ここで勿体ぶってもいいが、行き先を聞いた所長のリアクションも見たくなってきた。

 好奇心に負けた私は、あっさりと答えを述べる。


「ここから最寄りの国――聖教国だよ」


「なる、ほど……」


 途端に所長が苦々しい表情になる。

 相槌の仕方に、今の心境がありありと表れていた。

 とても嫌そうなのは確かである。

 厄介事を予感したのだろう。

 こういった察知の良さは悪くない。


 私は所長の反応を楽しみながら確認する。


「聖教国については知っているかね」


「もちろん知っております。王国とは十年以上に渡って敵対しておりますから」


 所長は低い声で言う。


 今から向かう聖教国は、大陸でも幅を利かせる国の一つだ。

 教皇と呼ばれる最高権力者が支配しており、神々への信奉が特に強いと聞いている。

 さらに聖教国こそが大陸を率いるに相応しいと主張しており、高慢な要求を周辺諸国に繰り返しているそうだ。


 当然、他国との関係は劣悪だ。

 領土が隣接する王国も手を焼いているという。

 過去に何度も戦争が起きそうになるも、女王がなんとか回避させてきたそうだ。


 傲慢極まりない聖教国だが、保有する軍隊の質は高い。

 現代魔術を利用した様々な兵器を持っているらしい。

 数年前、人工精霊を燃料にした特殊ミサイルを開発したそうだ。

 性能実験として、戦争中だった小国の首都を吹き飛ばした実績もある。


 その後も精力的に兵器開発を進めており、近年では同盟を結ぼうとする国も増えてきたとのことだった。

 大陸制覇を目指す強国――それが聖教国である。

 正義を振りかざして悪名を轟かせていた。


 女王は、そんな聖教国の存在が厄介に思っている。

 協議した末、彼女は私を派遣することにした。

 まずまずの采配と言えよう。

 私としても異論はない。


 暫し考え込んでいた所長は、恐る恐るといった調子で私に問いかける。


「……まさか、戦争ですか?」


「少し違うな。女王に命じられたのは存在の誇示だけだ。私の所属と能力をアピールすればいいらしい」


 私は話し合いで決めた内容を伝える。


 聖教国は武力による恫喝を得意としていた。

 故に王国もそれに対抗し、同じ手段で牽制することにしたのである。


 これは良い判断だ。

 どの時代にも、交渉の席に座れないタイプの者はいる。

 聖教国はおそらくそこに該当する。


 肝心のアピール方法だが、聖教国の目立つ場所に攻撃しようと思う。

 もちろん人々に被害が出ないように配慮はする。

 事前情報として、いくつかの遺跡や神殿の概要を伝えられていた。


 それらを破壊すればもれなく怒りを買うことになるが、同時に私の力も知れ渡るだろう。

 向こうが報復を企もうが関係ない。

 王国は私が防衛してみせる。

 人工精霊のミサイルが撃ち込まれようと、数倍の威力で反射できる。

 きっと愉快なことになるだろう。


 私は戦争する未来を想像して笑みを深める。

 ここ最近は現代兵器と戦うことがなくて退屈していたのだ。

 そろそろ壊し甲斐のある相手がほしかった。

 滅亡しないラインを見極めつつ戯れるには、聖教国はちょうどよさそうだった。


 上機嫌に妄想を広げていると、勇敢な所長が口を挟んでくる。


「そ、それは実質的に交戦することになるのでは……?」


「心配しなくていい。仮にそうだとしても、危険は私が排除しよう。君は大船に乗ったつもりでいたまえ」


 私が宣言すると、所長はそれ以上の反論ができなくなった。

 彼は誰よりも私の力量を知っている。

 聖教国が本気を出そうと、絶対に敵わないと理解したに違いない。

 小さな声で「強力な胃薬を用意しよう」と言ったが、それに触れるのは野暮だろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 完全に所長がヒロインな件
[良い点] >向こうが報復を企もうが関係ない。 >王国は私が防衛してみせる。 >人工精霊のミサイルが撃ち込まれようと、数倍の威力で反射できる。 >きっと愉快なことになるだろう。 それは楽しみだ。 と…
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