第3話 錬金術師は現代武器を知る
私は無機質な通路を歩く。
天井の照明は、未だに赤く明滅していた。
時折、警鐘も鳴り響いている。
耳障りなのでそろそろ止めてほしいが、発生源がよく分からない。
残念ながら止めることができなかった。
施設を丸ごと消滅させれば静かになるものの、それを実行するつもりはない。
何かの縁で私が目覚めた場所なのだ。
軽い不満だけで消すのは、さすがに無粋だろう。
警報くらいは大目に見ようと思う。
(いくら進めど同じ光景に見えるな……)
脱走した私は、施設内を散策していた。
この建物は広い上に、構造が妙に複雑だった。
加えて似たような場所が多い。
侵入者対策なのかと勘ぐるほどには面倒であった。
おかげで方向音痴の私は、既に現在地を把握していなかった。
最初の密室に戻れと言われても不可能だろう。
現在、私は施設の責任者を捜索している。
特に手がかりがあるわけではない。
適当に歩き回れば、いずれ辿り着くのではという考えだった。
それが些か甘い見込みであるのは既に察していた。
私は今、完璧に迷い続けている。
しかし道中、収穫がまったくなかったかと言われれば、決してそうではない。
半殺しにした兵士から、いくつかの情報を入手していた。
たとえば筒の武器が、銃という名称であることや、他にも現代の武器について学ぶことを知った。
やはり休眠前の文明とは比較にならない。
個人の内包する魔力量は、全体的に減っている。
そこを技術で補っている印象であった。
悪くない方針だと思う。
力のない者が工夫を凝らすのは良いことだろう。
散策しているうちに十字路に到着した。
右側を見ると、数人の兵士が待機していた。
横に列を作る彼らは、揃って銃を構えている。
(確か小銃だったか……)
兵士から聞いたところによれば、連射性能を有する標準装備らしい。
私の姿を認めた瞬間、同時に射撃を始める。
私は空気を盾に変質させて、最初と同じ要領で防御した。
目前で食い止められた鉛玉は、あえなく床に落下する。
兵士達はすぐに弾切れを起こした。
彼らが装填を始めたのを見て、私は腰に吊るした小型の銃――拳銃に触れる。
それを持ち上げて構えると、兵士達に向けて連射する。
弾丸は通路の壁や天井に命中した。
甲高い音と共に火花が散るも、兵士達には一発も命中していない。
(この距離と数なら、まず当てられると思ったのだが……)
私は自らの腕前に落胆する。
銃の扱いは知識として習得していたが、肝心の技量は皆無であった。
兵士達はまるで手足のように操っていた。
正確な射撃を披露していた。
恐怖に見舞われた新兵でも可能だというのに、私は綺麗に失敗してしまった。
(向いていないのか……)
静かに悟った私は、打ち鳴らすようにして両手を合わせる。
床に散乱する弾丸に力を加えて射出されて、兵士達を蜂の巣に仕立て上げた。
「やはりこちらの方が簡単だな」
せっかくなら、銃を使いこなしてみたい気持ちもあった。
やはり練習が必要らしい。
何度も使用すれば、いずれ命中してくれるのではないだろうか。
そう願いたい。
淡い期待を覚えながら、私は先へと進んでいく。