第29話 錬金術師は石像を語る
所長は顎が外れそうなほどに口を開いた。
私と石像を交互に見ると、震える声で尋ねてくる。
「守護神、ですか……?」
「うむ。本人の自称だから確証はないがね。少なくとも神格の類ではあった」
あの感じだと嘘ではないだろう。
神は基本的に自負心が非常に強く、己を偽るような真似はしない。
女王が同じ再生能力を保有しているから、やはり守護神なのだろう。
「あなたは本当に、神殺しを……」
「これくらいで驚かれても困るな。生まれたてだから、かなり弱かったよ」
人間からすれば、神殺しはとんでもない行為だ。
禁忌そのものである。
神殺しとは、原則的に成し遂げられないもので、考えもしないことだった。
それは現代でも同じらしい。
神は基本的にタフである。
ある程度の段階までは物理法則を無視し、特殊能力もブロックしてくる。
人間には決して殺せない存在だった。
それを差し引いても破壊が困難であった。
神は世界で最も頑丈な物体と言えよう。
掠り傷でも滅多なことでは付けられない。
超巨大隕石を叩き付けても軽傷だった。
専用の対策をしなければ、とにかく効きが悪いのだ。
その限界が気になったことがあり、過去に実験をしたことがある。
当時の最高神を捕獲し、途方もない巨体を手のひらサイズまで圧縮して上空へ打ち出したのだ。
宇宙空間を際限なく加速した最高神は、最終的には光速の八倍に達すると、無関係な惑星に直撃した。
その結果、惑星の生物を滅ぼしてしまった。
惑星は爆発四散して、余波がこちらの世界まで返ってきて大変なことになった。
さすがの私も反省して、以降は好奇心を全開にした実験を控えている。
とにかく、神格に位置する者は頑丈極まりない。
たまに神殺しが起きるのは、他の神から加護や武器を与えられた場合がほとんどだ。
何らかの形で神が接触して発生している。
石像を調べていた研究者達は、いつの間にか退散していた。
十中八九、私に恐怖したのだろう。
もっとも逃げたところで意味はない。
すべては私の気分次第なのだから、堂々と職務を全うすべきではないか。
胃痛に苛まれながらも、私のそばにいる所長を見習ってほしいものだ。
そんな所長は、石像を眺めながら私に尋ねる。
「どうして、このような仕打ちをなさったのですか」
「先ほども言ったが、いきなり襲われてね。話が通じない様子だったので、やむを得ず始末した」
完全に殺すと、加護が消えてしまう恐れがある。
それは女王に申し訳ないので駄目だ。
私もその辺りの配慮はできる。
「一応は生きているが、魂を引きずり出して破壊してある。安心してくれていい」
「ああ、そんな、まさか……」
所長が膝から崩れ落ちる。
頭を抱えて、弱々しく唸っている。
彼の様子を見た私は首を傾げる。
「意外だな。君はそんなに信心深かったのかね」
「国の守護神が石化されれば、誰でも呆然としますよ……」
所長は疲れ切った顔で言う。
その意見を流しつつ、私は含みを持たせて笑う。
「神々は傲慢な輩ばかりだ。君もこうならないように気を付けたまえ」
ちなみに石化した守護神は、常に神気を放出している。
それを魔力に変換して台座に貯蓄されるように仕込んでいた。
城に接続させれば、無限にエネルギーを供給できるようになる。
後ほど女王に打診して実行するつもりだ。
臣下として、これくらいの貢献はしなければ。




