第28話 錬金術師は成果を確かめる
翌朝、城内の一室で紅茶を楽しんでいると、ノックもなしに扉が開かれた。
転がり込んできたのは所長だ。
彼はかなり動転しているようだった。
「ル、ルドルフ様! 大変ですっ!」
所長は呼吸を乱しながら叫ぶ。
ここまで走ってきたのだろうか。
私はテーブルにカップを置くと、嗜めるように応じる。
「そんなに慌ててどうしたのだね、ゴロゴロー君。優雅な朝に不釣り合いじゃないか」
「グレゴリーです。それより中庭に来て下さい」
「ほう、中庭か。あれを見たのだね」
私は笑みを深めて尋ねる。
その反応で何かを察したのか、所長は渋い顔をした。
「……やはり、ルドルフ様でしたか。一体あれは何なのですか?」
「女王に対する忠誠の証だよ」
私が答えるも、所長は納得していない。
気持ちは分かる。
漠然とした表現で意味が分からないのだろう。
しかし、勿体ぶる楽しさも理解してほしい。
私は紅茶を飲み干すと、部屋の出入り口へと向かった。
突っ立っている所長の肩に手を置く。
「見に行くのだろう? 説明するから付いてきたまえ」
私は所長を促して部屋から移動する。
廊下を進んでいると、兵士や白衣姿の研究者があちこち駆け回るのが散見された。
「やけに騒がしいな」
「中庭のことで混乱を来たしているのですよ」
「なるほど。深夜に報告するのは迷惑かと思ったが逆効果だったか」
余計な気遣いだったらしい。
思ったよりも大事になってしまった。
まあ、放置したところで実害は生じ得ない。
城内が少しパニックになっているだけで、気にするほどではないだろう。
ほどなくして私達は城の中庭に到着する。
私と女王が決闘を行った場所だ。
オリハルコンの大地はくり抜かれて、代わりに土で埋められていた。
その中央部に一体の石像が建っている。
翼の生えた美女が剣を掲げていた。
立派な佇まいは、今にも動き出しそうな造形をしている。
石像は台座の上に載っていた。
寄り集まった研究者が熱心に調べている。
小声で意見も交わしていた。
所長は私に確認をする。
「ルドルフ様が関与しているのですか?」
「ああ、関与というより私が建てた。共犯者はいないよ」
私は誇らしげに述べる。
その声が聞こえたのか、研究者達が一斉にこちらを向いた。
手を振ってやると、ぎょっとして視線を戻す。
一部始終を気の毒そうに眺めていた所長は私に問いかけた。
「これは何なのですか」
「女神像だ」
私は同じ調子で言う。
所長は参ったように髪を掻く。
「ただの石像ではありません。まるで、その――」
「生きている。そう言いたいのだろう?」
「……はい」
所長は頷いた。
どうにも苦々しい反応だった。
もしかすると、石像の正体に薄々気付いているのかもしれない。
それを否定したがっているように見えた。
私は所長の儚い希望を打ち砕くため、嬉々として続きを話す。
「君の指摘は正しい。命の有無を基準とするなら、この石像は生きている」
そこで言葉を切って、石像を指差した。
たっぷりを間を置いたのちに、その場の人間が聞き逃さないように答えを口にした。
「昨晩、私を襲った守護神を石化して作った。なかなか精巧な出来栄えだと思わないかね?」




