第24話 錬金術師は思案する
その日の夜、私は王城の屋根の上にいた。
尖塔の中でも最も高い場所だ。
そこから遥か下にある城下街を眺める。
街には活気が感じられた。
人々がひしめくように往来している。
私と所長が訪れた当初は避難が徹底されていたが、現在では元通りの姿を見せていた。
軍部は私のことを災害扱いしたわけだが、あながち間違いではない。
少しだけ訂正するなら、災害は対策を打つことで被害を軽減できる。
私の場合、そういった行為は無意味だ。
本気で滅ぼそうとすれば、あらゆる対策を無視して王国全土を消し炭にすることが可能である。
つまり私は災害以上に厄介というわけだ。
もちろんそのような愚行に手を染めるつもりはなかった。
このことを兵士達に伝えようとも思わない。
どうせ不必要な緊張を撒くだけだし、彼らも薄々ながら気付いている。
気休め未満の効果だろうと、対策くらいは打たせてやるべきだろう。
(まあ、そんなことはどうでもいい)
私は晴れて王国所属となった。
これからは女王の命令に従って行動する所存である。
国の後ろ盾を利用して、大陸上の戦争を盛り立てていきたい。
私は片手を振る。
するとそこに一冊の書物が出現した。
城内の資料室から引き寄せたものである。
私はページをめくって、目当ての箇所で指を止めた。
そこには大陸地図が記載されていた。
色分けして国ごとの面積と境が分かりやすく示されている。
(ふむ。どうしたものか……)
私は地図を見ながら考える。
王国は地図の中央部に位置していた。
複数の国家に囲われている状態だ。
軍事力はなかなかのもので、多方面を牽制できるだけの基盤を有している。
大陸上でも随一の強国だと評判だった。
緊張状態の国々も、王国があるので戦争できない部分がある。
結果として大陸は絶妙な均衡を保っていた。
とは言え、完全な平和かと言えばそうでもない。
僻地ではしっかりと戦争が起きている。
水面下にて様々な策略が飛び交って、互いに出し抜こうと尽力していた。
個人的には、そういった水面下の争いを表舞台に引き揚げたい。
大々的に戦争を悪化させて、報復に次ぐ報復で大陸上に戦禍を巻き起こすのだ。
さぞ愉快な構図が出来上がることだろう。
もっとも、女王の方針に則るのが原則である。
当分は彼女のやり方に沿って行動するつもりだった。
彼女も決して消極的な人物ではない。
覇道を突き進むようなタイプなので、私の期待通りに動いてくれると思う。




