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第21話 錬金術師は決闘に満足する

 王城の一室。

 沈み込むように柔らかいソファにて、私はカップの紅茶を一口飲む。

 続けて正面に座る所長に話しかけた。


「いやはや、傑作だよ。ゲレゴリー君」


「グレゴリーです……」


 所長は真っ青な顔で応じる。

 具合でも悪いのだろうか。

 決闘の余波で負傷した分は既に治療している。

 それどころか、彼の持病や腰痛、肩凝り等もまとめて改善しておいた。

 健康状態は完璧なまでに整っているはずだ。 


 しかし、それにしては顔色が悪かった。

 十中八九、精神面が要因だろう。

 つくづく苦労性だと思う。


 愉快な気持ちで所長を観察していると、彼は疑問を口にした。


「ところで、何が傑作なのでしょう」


「もちろん女王だよ。彼女は素晴らしい逸材だ」


 あの決闘から半日が経過した。

 未だに興奮は冷めない。


 女王は底力を見せつけてくれた。

 基本的に人類は脆弱である。

 数はそれなりに多いが、どれだけ束になろうとも、取るに足らない存在に過ぎない。


 しかし、ごく稀に面白い者が生まれる。

 種族的な限界を超越し、称賛に値するような才覚を披露してくれるのだ。


 たった一つでも輝くものがあればそれでいい。

 元より人間に全能は求めていない。

 何らかの長所が尖っているだけで十分だった。


 ごく短い間だが、女王はとてつもない生命力を発揮した。

 さらには決闘において勝利までした。

 どのような形式であれ、単独で私に勝てるのは一握りの存在のみだ。


 腑抜けた王なら国を奪うことも考えたがとんでもない。

 女王は紛れもなく一流の人間だった。

 今は疲労困憊で眠っているが、目覚めた暁には、是非とも再度の面会を希望しようと思う。

 神々より強い存在を配下にしたのだ。

 さぞ喜ぶことだろう。


 私は空のカップを持ち上げると、部屋の端に立つ給仕に声をかけた。


「おかわりを貰えるかね」


「は、はひっ」


 給仕の少女が上ずった声で応じる。

 所長に負けず劣らずの動揺ぶりだった。

 白と黒のメイド服を揺らしてやってくる彼女は、途中で派手に転ぶ。


 顔を上げると、泣き面で鼻血を垂らしていた。

 今にも卒倒しそうな様子で私を見ている。

 叱責を受けるとでも思ったのだろうか。


 その姿に思わず苦笑しつつ、少女に手を差し伸べる。


「大丈夫かね」


「す、すみません。ありがとう、ございます……」


 少女は私の手を取って立ち上がる。

 その際、彼女の鼻血を止めて、メイド服に付いた血痕も消しておいた。

 負傷した給仕が部屋にいると気になってしまう。

 身嗜みを整えてやることくらいは私にもできる。

 これも人類を愛する一環であった。


 こちらの考えをよそに、少女はテーブルのティーポットで私のカップに紅茶を注ぐ。

 手が震えているせいで、カタカタと陶器が音を鳴らしていた。

 極度の緊張によるものだ。


「はわわ、うぅ……」


 本人は必死に震えを止めようとしているが、その焦りが余計に音を立てる結果に繋がっている。

 見事なまでの悪循環は、見ているだけで面白かった。

 所長が気の毒そうに眺めているのも実に印象的だ。

 共感できる部分があるのだろう。

 もう少し会話をして反応を試したいところだが、あまり意地悪をするのも大人げないので断念する。

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