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第18話 錬金術師は驚嘆する

 女王が疾走してくる。

 あまりの力強さによるものか、一歩ごとに地面が陥没していた。

 突進の勢いで生み出された暴風が、逃げようとした所長を吹き飛ばす。

 女王は瞬く間に距離を食い潰していく。


 何の駆け引きもない突進だ。

 故に下手な小細工は無意味である。

 拳闘士であるのは予想していたが、まさかここまで馬鹿正直に突っ込んでくるとは思わなかった。


 女王はこのまま肉迫し、私が術を使う前に殴る魂胆だろう。

 一撃でも入れれば勝利できる。

 短期決戦が狙いなのは明白であった。


 笑ってしまうほどに単純明快な作戦だ。

 女王は極端なまでの武闘派である。


(いいぞ。上々の始まりだ)


 私は小銃を持ち上げて、照準に女王を捉える。

 そこから三連射をお見舞いする。

 反動で腕が上がり、二発は大きく外れた。

 一発は女王の胴体へと突き進む。


 女王は止まらず、顔の前で腕を交差させた。

 そこに弾丸が到達する。

 甲高い音が鳴って、前腕に弾が弾かれた。


(皮膚の硬質化か)


 魔力の高めて、弾丸を弾けるようにしたのだろう。

 とことん突進に特化した能力である。

 いっそ清々しいものがあった。


 女王に弾丸は効かない。

 あの硬度だと、爆発物も通用しないだろう。

 すなわち現代の兵器では、ほとんど殺害不可能だ。

 極めて原始的だが、対策が困難である。


 女王を倒すには、彼女を凌駕するパワーで対抗するか、搦め手でひたすら優位を取らせないようにするしかない。

 私の場合は後者だろう。


 そう判断した私は小銃を乱射する。

 今度は弾丸に術を仕込んで改竄した。

 液状にして拡散させると、弾丸同士が繋ぎ合わさる。

 あっという間に鉛製の柔軟な網の完成だ。

 赤熱する網が女王の進路を塞ぐように展開される。


「ふんっ!」


 網が女王に被さるも、一瞬で引き千切られた。

 焼けるような音と白煙が上がる。

 女王は高温をものともせずに距離を詰めてくる。


(自動車と衝突しても勝てるんじゃないのか?)


 目の前の光景に私は含み笑いをする。

 女王からすれば、私が何をするか分からないはずだ。

 当然、突進にはリスクが伴う。

 それにも関わらず、彼女は果敢に攻め立ててきた。

 そして見事に突破した。

 大した胆力と言えよう。


 女王が跳びかかってくる。

 半身になって、右の拳を引いた。

 牽制はなく、最初から全力で勝利を狙っている。


 やはり清々しいほどにシンプルだった。

 思わず拍手を送りたくなる。

 しかし、生憎とその余裕はない。


 私は地面を改竄すると、前面一帯を壁のように覆った。

 何重にも圧縮構成したそれは、ミサイルすら防げるだけの耐久性がある。

 ただし、女王が相手では些か心許ない。

 素手で打ち砕かされる恐れがあった。


 さらに私は足元の土を操作して高速で流動させる。

 流れに乗って自らを真横へ運んでいった。

 身体能力の低い私は、こういった方法で動く方が素早いのだ。


 一瞬遅れて土の壁が爆散した。

 私が立っていた場所に無惨な大穴が開いている。

 土煙が舞う中、突き出された拳が見えた。


 堅牢な防御を打ち砕いた女王が、壁の残骸を乗り越えてくる。

 彼女は地面を滑るように移動する私を睨むと、またもや突進してきた。

 スピードは向こうの方が明らかに速い。

 欠伸の一つでもしている間に追い付かれて殺されるだろう。


「猛獣でも目指しているのかね」


 皮肉を口にしつつ、私は小銃の引き金を引いた。

 しかし、虚しい音がするばかりで弾が出ない。

 どうやら弾切れのようだった。


(やれやれ、これだから現代兵器は……)


 小銃を下ろした私は、女王に向けて手をかざす。

 彼女の肉体を直接改竄することにしたのだ。

 これなら肉体がどれだけ頑丈だろうと関係ない。

 いくらでもやりようがあった。


 反則と言ってもいい方法で、決闘においては無粋極まりない。

 なるべく使いたくなかったのだが、現代兵器だけで女王を殺すのは困難と判明した。

 こちらも少しだけ制限を解除しようと思う。


 目前まで迫る女王を狙って、私は術を行使した。

 彼女の体内に歪みが生まれかけて、消滅する。

 ほんの一瞬だけ揺れた女王が、不敵な笑みを浮かべた。


「――ほう」


 私は片眉を上げる。

 驚きと喜びに思考を停止していると、女王が膝を曲げて溜めを作る。

 直後に低空の飛び蹴りを放ってきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女王かっけえ! まさしく「おっぱいのついたイケメン」 そして所長の受難。w [気になる点] 願わくば、女王と所長の生存フラグを。 [一言] こっちも投稿ありがとうございます! ここ最近…
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