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第17話 錬金術師は決闘に挑む

 その後、私達は城の外にある空き地へと移動する。

 剥き出しの大地の下には、術式が埋め込まれていた。

 自動で結界が展開されるようになっているようだ。

 周囲への被害を考慮して、この場所を決闘の地に定めだのだろう。

 私と女王は、その中央部で距離を取って対峙する。


 女王の服装は、ドレスから変わっていた。

 身軽な革鎧を部分的に装着している。

 動きやすさを重視しているのだろう。

 武器は持っていない。


 女王の体内魔力量は、一般的な魔術師の数倍にあたる。

 大した才能だ。

 それだけの魔力があれば、武器の有無など関係ない。

 いくらでも魔術で攻撃可能だろう。


 もっとも、細かい戦闘スタイルは不明だ。

 どのような立ち回りか分かるまでは気を付けた方がいい。


 対する私は、しっかりと武装している。

 衣服は高級スーツのままだが、腰のホルスターに拳銃を収めていた。

 反対側に数個の手榴弾を吊るしており、散弾銃を肩掛けしている。

 両手で持つのは小銃だ。

 ジャケット裏に予備弾倉を隠している。


 いずれも兵士から借りたものだ。

 せっかくなので、現代の武器で決闘に挑むことにしたのである。

 別に無手でも十二分に戦えるが、こういった試みは必要だろう。

 どうせならば楽しまなくてはいけない。


(最高の気分だ……)


 先ほどから笑みが抑え切れなかった。

 決闘など果たしていつぶりか。

 真っ向から個人が単独で挑戦してきたのだ。

 これほど素晴らしいことはあるまい。

 その心意気だけでも、多大なる賛辞を贈りたかった。


 しかも今回の提案は、決して蛮勇や見当違いな自信によるものではない。

 前方に立つ女王は、非常に冷静だ。

 私のことを常に観察している。


 勝利する見込みがある者の顔だ。

 こちらを全力で捻じ伏せるつもりだと言外に主張している。


 決闘の勝利条件にもそれが垣間見えた。

 女王は、私に一撃でも当てれば勝利する。

 私は女王を殺害すれば勝利する。

 明らかに女王が有利だが、それについてはどうでもいい。


 女王は、私に一撃を当てられる確信があるようだった。

 だからこのような条件を設定している。

 決してやけになったわけではない。


 向けられる熱意がなんとも嬉しかった。

 現代にも面白い逸材がいる。

 それを強烈に痛感させられた。

 肌のひりつく感覚に胸が高鳴り、呼吸が自然と震える。


 私は浮かれているのを自覚していた。

 正直、この決闘で敗北しても構わない。

 敗北すれば女王の配下になるも、別に気にしなかった。


 元より彼女とは手を組むつもりなのだ。

 そこに上下関係が生まれるだけである。

 何も困ることはない。


 このような素晴らしい体験を提供してくれるのだ。

 既に報酬を貰っているようなものである。

 百年や二百年ほどは従順になってもいいほどだった。


「ふむ」


 私は小銃の動作を確認する。

 フルオート機構なので、弾切れになるまで連続で発砲できる。

 現代兵器の中でも傑作と言えよう。

 従来の魔術師を時代遅れにしたと評しても過言ではない。


 仁王立ちする女王が拳を握り締める。

 僅かに腰を落として、こちらをじっと見つめている。


(あの構え……もしや拳闘士か?)


 どうやら女王は接近戦を得意とするタイプのようだ。

 その証拠に、彼女の両腕を魔力が密接に流れている。

 拳を経由して術を打ち込むつもりなのかもしれない。


 体格から察するに、身体能力は非常に高い。

 武術の一つも知らない私は、勝ち目は皆無だろう。


 つまり拳の間合いから外れて攻撃するのが賢明だ。

 遠距離から一方的に銃撃を浴びせるしかない。


 もっとも、女王もそれを察しているに違いなかった。

 その上で肉弾戦を仕掛けるということは、相応の対策があるのだ。


(さあ、見せてもらおうじゃないか)


 私は小銃を持つ手に力を込める。

 女王の視線に対抗して笑みを深めた。


 私達の中間地点に一人の男が進み出る。

 ぎこちない動きをするのは所長である。

 彼が決闘の審判なのだ。

 私が推薦したのだが、本人は涙を流して喜んでいた。


 所長が片手を掲げた。

 あれが下ろされた瞬間、決闘が開始する。


 その前に私は女王に声をかける。


「覚悟はできているかね」


「無論だ。お主を叩き潰す」


 女王は淀みなく宣言する。

 なんとも頼もしい返しであった。

 胸中の熱気が狂おしいほどに膨れ上がる。


 やがて所長が、その手をゆっくりと下ろし始めた。

 私は全神経を集中する。

 歓喜を理性で抑え込み、いつでも発砲できるように構えた。


 所長の手が下り切ったその時、女王のいる地点が爆発する。

 凄まじい力で地面を蹴った彼女は、雄叫びを上げて突進してきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 所長、大変だなあ、、、もうなんて名前だったか覚えていない笑
[良い点] ふむ……ルドルフ殿はこの戦いで敗北しても構わないと思っている様だが、 「ルールを受け入れて敗北したなら、それはそれで潔く受け入れる」という立場か。 「将棋に負けたからといって刃傷沙汰に及…
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