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第16話 錬金術師は王と交渉する

 美女はかなりの長身で、よく鍛え上げた体躯をしていた。

 しなやかな筋肉で構成されており、ドレスより鎧が似合いそうだ。


 透き通るような金髪は後ろで括られている。

 深海のような色の瞳が、底無しの力強さを湛えていた。

 紅に彩られた唇が浮かべるのは、自信に満ちた微笑である。


 全体的に生命力に溢れていた。

 太陽を彷彿とさせるような女である。


(大した女傑だな)


 私は感心する。

 王については詳しく聞いておらず、予想外の人物が出てきた。

 おそらくは歴戦の人物だろう。

 英雄と評しても差し支えないのではないか。

 そう思わせるほどの覇気を秘めている。


 絨毯を進む女王は、適当な距離で足を止めた。

 彼女は私を見て問いかける。


「お主が原初の錬金術師か」


「ん? 聞き覚えのない名称だな」


 私は首を傾げつつ、後ろで怯える所長に視線をやった。

 彼が諸々の手配を行っていたからだ。


 視線に気付いた所長は早口で回答する。


「ルドルフ様の経歴と、使用される魔術から考案した名称でございます……」


「ふむ、そうだったのか」


 それを聞いて納得する。

 所長が咄嗟に閃いた異名らしい。


 現代の人間からすれば、確かに私は神代の存在だろう。

 原初という表現も、あながち間違いではない。


 そして私が得意とする能力は、万物の改竄である。

 現代の魔術的な分類に当てはめるとするなら、錬金術が近い。

 一般的な錬金術師は、もっと限定的な技能だが、これも名称として間違っていなかった。

 二つの要素を合わせて"原初の錬金術師"というわけらしい。


「悪くないネーミングだ。ありがたく使わせてもらうよ」


「きょ、恐縮です」


 土下座をする所長をよそに、私は改めて女王と相対する。

 胸に手を当てて頷いてみせた。


「いかにも私が原初の錬金術師だ」


「余と話し合いたいと聞いておるが」


「そうなのだよ。将来に関する大切な話だ」


 私は一歩前へ出ると、親しげな口調で提案をする。


「世界各国で戦争が起きているそうだね。私が力を貸すから、さらに敵を増やしてみないか」


 室内にざわめきが起こる。

 兵士達によるものだ。

 かなり反感を買っているようだが、女王の前ということもあり、表立って行動を起こす者はいない。


 当の女王は怪訝な表情をしていた。


「お主は何を言っている?」


「少し言葉選びが悪かったな。戦線を広げてほしいのだよ。争いの火種をあらゆる地域に振り撒いてくれないかな」


「ル、ルドルフ様っ! それだと余計に誤解を……」


 所長が慌てたように発言するも、私はそれを手で制する。

 そのまま何事もなかったかのように話を続けた。


「他国と比べて優位に立ちたいと思わないかね。自国の資源を損耗したくないと思わないかね。どちらも王たる者の頭を常に悩ませているはずだ」


「…………」


 女王は沈黙する。

 否定できないのだろう。

 こういった部分は、どの時代も変わらないものだ。

 たまに助力を懇願されることもあったので、よく知っている。


「これは紛うことなき自慢だが、私はとても強い。全盛期の神々すら、束になっても私には敵わなかった。味方にできれば、かなり頼もしいと思うがね」


 私は正直に述べる。

 ここで謙遜することはあるまい。

 能力の片鱗を散々見せつけてきたのだ。

 国からの洗礼も退けてきた。

 私がどれだけの力を有しているかは、なんとなく理解しているだろう。


「別に断ってくれても構わないよ。その時は別の国にアプローチするまでだ。次は戦場で会うことになるだろう」


 駄目押しの一言を加えて、さらに一歩前に出る。

 笑みを隠さず、女王の意志を確認する。


「さあ、どうする? この場で選択してくれ」


 顰め面の女王は、やがて口を開く。


「一つ提案がある」


「ほう、何だね」


 私が続きを促すと、女王は突如として殺気を放った。

 あまりの圧力に室内が軋む。

 緊張のあまり、尻餅をつく兵士が続出した。

 背後の所長が「ひいっ」と情けない声を上げている。


 恐怖を生み出した女王は、極大の覇気を纏いながら提案する。


「余とお主で決闘をしよう。一撃でも当てれば余の勝ち――対等な協力者ではなく、お主を配下とする。余が死ねば、この国を明け渡してやる」


 女王はとんでもない内容を平然と口にした。

 冗談を言っているようには見えない。

 彼女は、本気だった。

 私の力を知りながらも、尚も決闘を望んでいる。


「どうじゃ、面白いと思わぬか……まさか、これに乗らぬ臆病者ではなかろうな?」


 女王は私を挑発する。

 その双眸は、無尽蔵の狂喜を抱えていた。

 王としての打算と、純粋な戦闘欲求だ。

 二つが噛み合わさった結果、私に勝負を挑むことになったらしい。


(挑発されるなど、一体いつぶりだろうな……)


 私は喉を鳴らして笑う。

 久々の経験に心が躍っていた。

 臆病者と罵られたが、一切気にならない。

 女王の本性を垣間見て、楽しくなってしまった。


 部屋全体を揺るがす覇気を受けながら、私は静かに答えを返す。


「いいだろう。その提案に乗ろうじゃないか。王の力を私に見せてくれ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白くなってまいりました。一発当てれば、、、ということなら可能性はありますね笑
[気になる点] 仮に配下になったとしても、制御できるとは限らないんだよなぁ……。 [一言] 今話もありがとうございます!
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