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第14話 錬金術師は城を訪れる

 ほどなくして城に到着した。

 私は車内から見上げる。

 荘厳な佇まいに華美な装飾は施されていない。

 機能面を重視しているようだが、それが調和された美しさを形成していた。

 いくつもの尖塔が空に向かって伸びており、尖塔の間に通路が架かっている。


 私は感嘆の声を洩らす。


「ほほう、立派じゃないか」


 この国の威光が象徴的に表現されている。

 人々は、城を見上げるたびに王の権力を認識するのだろう。

 存外に悪くない光景であった。


 城に続く門は、やはり開放されている上に無人だ。

 私達を阻む者は誰もいない。

 堂々と車を近付けて、ついには門を通過する。

 何の反応もないことに、私は思わず唸る。


「やはり攻撃してこないな」


「おそらく王が厳命しているのでしょう。ここで戦いが始まれば、間違いなく城が巻き添えになりますから」


 所長が推測を述べる。

 それを聞いた私は、ふと笑みを浮かべて、彼に聞こえるように呟く。


「その展開を期待していたのだがね」


「えっ」


 所長が反射的に振り向く。

 青ざめた顔だった。


 私はじっとその目を見る。

 少々の沈黙を挟んで、くだけた調子で笑みを重ねた。


「冗談だよ。真に受けないでくれ」


「は、ははは……」


 所長は疲れた笑いを見せた。

 そっと胸の辺りを撫でて息を吐き出す。


(胃痛だろうか?)


 私と行動を共にする者は、だいたいが同じ症状に苛まれてきた。

 平然としていた者と言えば、真っ先に浮かぶのはあの賢者か。

 彼女は常に冷静だった。

 どのような場面でも変わらぬ態度を保っていた。


 まったく、所長とは大違いである。

 彼はかなりの苦労性だ。

 だからこそ困らせるのが面白いのだが、本人はそれに気付いていないだろう。


 車両は城の側面に向かい、芝生の中庭に停まった。

 そこで所長は私に確認をする。


「ここからは徒歩になりますが、よろしいですか」


「構わんよ。先導してくれたまえ」


 私はそう返しながら車を降りる。

 さすがに城内を車で走れとは言わない。

 そこまで滅茶苦茶な男ではなかった。


 私達は最寄りの出入り口から城内へと入る。

 閑静な白い廊下が続いていた。

 窓から差す日光が明るく照らし上げている。


 城の構造把握をしていると、前方から二人の兵士がやってきた。

 城内の巡回中だったのだろうか。

 彼らはぎょっとした顔になると、直後に鋭い目付きを向けてきた。


 ただし彼らは何もしない。

 私を意識しながらも、手出しする気配はなかった。

 事前に命令を受けているのだろう。


 すれ違う直前、私は手を上げて挨拶をする。


「やあ、君達。ご機嫌いかがかな」


「……ッ!」


 二人の兵士が瞬時に強張る。

 携えていた小銃を至近距離で突き付けてきた。

 引き金にはしっかりと指がかかっている。


 私は自分の額を叩きながら兵士達に告げる。


「その銃で私を撃つかね。いいだろう、よく狙いたまえ。特別に百発までは反撃しないと約束するよ」


 愉悦を隠さずに語ると、兵士達は後ずさる。

 銃の照準が微妙にずれていた。

 恐怖で失神寸前のようだ。


 見かねた所長が、やんわりと私を止めにかかる。


「あの、ルドルフ様。兵士を刺激するのは……」


「すまんね。ついからかってしまった」


 私は苦笑して、兵士達に別れを告げる。

 彼らは何度も転びなから逃げ去ってしまった。

 私はそれを見届けて移動を再開する。


 何度か階段を上がるうちに、赤と金の大扉の前に辿り着いた。

 多重の防御術式が張り巡らされている。

 ひとたび起動すれば、たちまち範囲内の人間を攻撃するだろう。

 無論、私を滅ぼすようなものではない。


 所長は足を止めて説明する。


「ここが謁見の間――王との面会場所となります」


「ようやく到着か。さあ、開けたまえ」


「……承知、しました」


 所長は一礼する。

 彼は大扉に触れると、慎重に開いていく。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >だからこそ困らせるのが面白い どう見てもS(サド)の気有りです。 ほんとうにありがとうございます!(白目) [一言] 次回も楽しみにしています!
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