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第13話 錬金術師は不満を抱く

 車両が外壁のそばまで到着する。

 街への出入り口となる門は、大きく開かれていた。

 多重の防御魔術が施されているが、こうして開放されていては無意味だ。


 門兵もおらず、往来する人々も見えない。

 避難させたのだろうか。

 不自然な静寂が門前に漂っていた。


「ふうむ……」


 私は首を傾げる。

 なんとなく探ってみるも、罠の類は見つからない。

 私が感知できないだけかもしれないが、それにしても妙だ。

 まるで防衛を放置したような有様であった。


「おかしい。まったく攻撃がないじゃないか」


「ルドルフ様のお力を認識したのでしょう。手出しすべきではないと判断したようです」


「ふむ。諦めが早い気もするが、仕方あるまい」


 肩をすくめた私は座り直す。

 臆病者を嬲るというのも、大して面白くない。

 こちらから仕掛けたところで、彼らはますます怯えるだけだ。

 残念ながら我慢する他ないだろう。


 車両が門を抜けて街中へと達する。

 背の高い建物が整然と並んでいた。

 整備された道路は、街中にも縦横無尽に走っている。

 車両と歩行者が円滑に移動できるように工夫されているらしい。

 よく考えられた設計だった。


 優れた街並みに感心するも、やはり人影が見当たらない。

 生活感は残っていた。

 やはりどこかへ避難したようだ。

 私の到来を察知して、どこかに逃げ込んだと見るべきか。

 あえて探し出してもいいが、今回はそれが目的ではない。

 住民の居所など後回しだろう。


 無人の街を車両は進んでいく。


「軍は本当に私の殺害を諦めたと思うかね」


「……個人的な見解となりますが、よろしいですか」


「ああ、率直な意見が聞きたい」


 私が頷くと、所長は言葉を選びながら話す。


「きっと諦めていないでしょう。たとえ王が禁じたとしても、暗殺を目論むはずです」


「断言するということは、何か根拠があるのだな」


「ええ、軍部にはプライドの高い者も多いので……」


 所長は苦い顔でぼやく。

 これは特定の人物を想像している。

 彼の心労を増やすような軍人がいるらしい。


 私としては喜ばしいことである。

 逃げる者ばかりで退屈していたのだ。

 果敢に挑んでくるような気概を見せてほしかったところだった。

 私に敵わないにしても、記憶に残るような勇姿を目の当たりにしたい。


「矜持のために行動するのは良いことだ。人間のあるべき姿だろう」


「そ、そうですか」


 所長は何か言いたげに相槌を打つ。

 このまま問題が起きないのが彼の望みに違いない。


 まあ所長には悪いが、きっと愉快な事態が発生することだろう。

 私という存在は、平穏と同居することができない。

 近々、必ず問題を招いてしまう。

 こういった時の勘は、よく当たるのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 仮にこの世界に核兵器と同じ性質の兵器が有るとして…… ルドルフ殿は無事でも、所長はどうだろ? バリアーとかが間に合うとは限らないし……。 [一言] 新年の挨拶は拳法家の方で書かせていた…
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