第12話 錬金術師は英雄を望む
私達を乗せた車は荒野を進む。
先ほどまでの攻撃が嘘のように何も起きない。
実に平穏な道のりであった。
そのような状況に私は不満を洩らす。
「退屈だな。もうミサイルは来ないのか。軍隊でもいいのだが」
一連の対応を鑑みて、この国がそれなりの軍事力を保有することは知っている。
まだまだ追加戦力を差し向けることができるはずなのだ。
貴重な兵士を消耗したくないのなら、ミサイルを飛ばしてくればいい。
躍起になって雨のように降らしてくれれば、こちらも少しは暇潰しになる。
ところが私の希望とは裏腹に、荒野は静かだった。
平和な青空がどこまでも広がっている。
きっと今日はずっと快晴だろう。
あまりにも退屈なので、私は車内で思案することにした。
腕組みをして無言で考え込む。
運転中の所長は挙動不審だ。
急に黙った私が気になるらしい。
彼を気遣う必要もないので、そのまま思考に耽っていく。
私が脳裏で振り返るのは、現代における戦闘の数々であった。
研究所内で始まり、直前の竜巻までを順に思い出す。
その中で気になったことを言葉にして呟いた。
「現代兵器は誰でも手軽に力を得られる。しかしその弊害なのか、突出した強さを持つ個人がいなくなった気がするな。そう思わないかね?」
「その辺りは何とも……」
所長は曖昧な返答をする。
彼には答えられない内容だったようだ。
休眠前の世界と比べると、人類は弱くなった面があった。
魔力量が激減し、身体能力も低下している。
それらを補うように技術が進歩しているものの、根本的な戦闘能力は大幅に下がっている印象だった。
早く私の興味を惹くような人間と会いたい。
探せばきっと見つかるはずだ。
個人的には、これから向かう城に期待していた。
国の中央部なのだから、優秀な人材も揃っているに違いない。
見つけた暁には、どうにか接触を図りたかった。
思考に没頭して退屈を紛らわせていると、遥か前方に変化が見えた。
荒野が途切れたその先に、豊かな草原がある。
そこに巨大な外壁が設けられていた。
外壁の向こうには、城の尖塔らしきものも望める。
私は所長に尋ねる。
「あれが目的地かね」
「はい。城下街から城へと繋がっております」
遠目なので詳細はまだ分からない。
しかしあの外壁から考えると、街はなかなかの規模だろう。
やはり現代は大きく栄えている。
どのような街並みが望めるか楽しみだった。




