郵便屋と手紙で繋がる2人の兄妹
こんにちは!お手にとって貰えて光栄です!
今回は長編ではなく短編で長くしてみました!
気に入ってもらえたら幸いです。
僕のお喋りは後書きで!本編いきましょー!
舞台はサテライト国。
真と偽の兄妹の手紙が二人を繋ぐ────。
「なんでここが違うって分かったの?」
男は女の子に聞いた。
「だって…。お兄ちゃんの記憶が無いもの…。」
女の子は答える。
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「なんでいないって気づいたの?」
男は男の子に聞いた。
「だって…。アリスの記憶が無いもん…。」
男の子は答える。
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遥か昔のサテライト国。
「ふわぁ。今日もいい天気だな…、今日も仕事だから雨が降らなくて良かったよ。」
男───フェイトはあくびをしながら空を見上げる。彼の職業は村の郵便屋さんだ。依頼人から手紙を受け取りそれを目的地まで郵便する仕事だ。ここまでは普通の仕事だが彼は魔法によって時空を移動することができる。その魔法を使って普通の郵便屋さんが配達できないところを配達するのが彼の主な仕事だ。
「おーい、フェイト。今日の仕事行って来いよー。」
仕事仲間が呼ぶ。
「じゃあちょっと行ってくるよ。」
俺は置いてあった手紙を鞄の中にいれて出発した。
二時間後、残りの郵便は一通だけになった。と言っても最初から届ける手紙は少なかったため早く終わった。大体の手紙は普通の人でも郵便できるので、フェイトの仕事は少ない。
「しっかし、大変だったなぁ。手紙を届けに行っただけなのにいきなり殺されそうになる星があるとは…。」
多少の愚痴がこぼれる。
「残りの手紙は…。え?目的地はサテライト国?」
その手紙は依頼主の住所と目的地の住所がまるっきり同じだった。
「でも、俺に振り分けられたってことは普通の人じゃいけないんだよな?」
俺は散々迷って依頼主に直接聞くことにした。
依頼主にはすぐに会えた。なんと依頼主は七歳ぐらいの子どもだった。
「えっーと。ロタ君かな?この手紙の依頼主は。」
ロタと呼ばれた男の子はコクンと頷く。
「この手紙はどこに出したいのかな?住所が同じなんだけど…?」
この質問をすると男の子はビックリしたように見えた。
「この手紙をここではなくて偽のサテライト国のここに届けて欲しいんです。」
ロタははっきりと伝えた。
「偽のサテライト国?時空を移動できる俺でも今まで聞いたことがないなぁ。」
この国に真とか偽とかあるのも知らなかった。
「はい。多分知らないと思います。だって皆記憶がないから。」
「記憶がない?そりゃまたどうして?」
記憶を消された覚えがないんだが…。
「えーと。1~2年前にこの村は魔王に襲われたんです、その時に魔王が言ったのは、『住民を少しの間貰っていく。そうだ。お前らの記憶を消去しておかないとな。』と言って、僕ら全員のその時の記憶と拐われた人の記憶を消したんです。だから住んでいる住民は何事もなく過ごしていますし、拐われた人は最初からいなかったようになってるんです。」
「え?じゃあなんでロタ君は記憶があるの?」
「僕は記憶魔法の持ち主だからだと思います。」
「ということは、他の記憶魔法の持ち主を探して話を聞いてくるか。」
俺がその場を離れようとすると、
「いえ…。他の方が記憶魔法を持っていても無駄だと思います。関連がないですから。」
ロタは俯きながら話す。
「僕はいつも一緒にいた妹が居たのですが、魔王に拐われてしまったのです。しかも、お父さんもお母さんも妹は最初から居なかったように記憶を操作されてしまったのであれ以来妹の事を話すことができなくなってしまいました。妹の事を聞いてみたことがあるんですが、『なにいってるの?妹は居ないじゃない。ロタだけよ。』と言っていて…。」
「ということは、ロタ君は妹が拐われてしまい、一緒にいて身内だったから忘れられなかったってことか。」
内容を纏めてみるとこんな感じだと思う。
「多分そういうことだと思います。」
「そういうことなら任せておけ。俺も行けなかったら謝るけど本当に存在するなら行けるはずだ。」
俺は行くために魔法を作り始めた。
「え?僕の話を信じてくれるんですか?」
ロタがビックリしたようにフェイトの方に視線を送る。
「信じるも何も俺は郵便屋さんなんでな、配達しなきゃならねぇ。この目で見るまでは信じきれないけどな。」
フェイトは笑いながら魔法の準備を整えた。
「じゃあ、渡しに行ってくる。じゃあな。」
ロタが手を振り返してくれる。子どもなのに大人びてたな…。
【時空魔法 時空超越】
ロタ君が言うには妹が拐われたのはここと同じ場所だけど偽?の方らしいからいつもの通り魔法を使って空間を移動してみる。あっ…、無理だったわ。俺は郵便物の場所の名前さえ知っていれば移動できるんだが…。
【時空魔法 異空間への旅扉】
フェイトの目の前にブラックホールのような真っ黒な球体が広がった。
「こ こっちだったら行けるのか…。はぁはぁ…。一通にこんなに手間かけるのか…、初めてだな、はぁ…。」
一気に体力を持っていかれた気分だ。でも、開いたということはロタが言っていた世界は本当にあると言うことだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくるか。」
勇気を出して、球体の中に飛び込んだ。
中に飛び込むと暗い視界がすぐに晴れた。
「本当にこんな世界があったのか…。」
飛び込む前に見た景色とほぼ変わらない世界がそこにはあった。
「違うところとしてはちょっと色が薄いところだな…。」
白黒ではないが、ちょっと黄色がかっている。でも、何色なのかは認識できるためそこまで気にすることでもないだろう。
「住所は…ここか。本当に飛び込む前の家とおんなじだな。」
音を出して呼び出してみると中から小さな女の子が出てきた。
「アリスに…何か…用?」
「うん。実は手紙が届いているんだよ。お兄ちゃんから。」
お兄ちゃんという言葉を聞いてアリスは目を開いた。
「お兄ちゃんから?!手紙…手紙ちょーだい!」
「お、おう。渡すからちょっと待ってろ。」
鞄の中に入れてあった手紙を出すとアリスはすぐに取り読み出した。
「アリス…ちゃんはお兄ちゃんのこと覚えてる?」
「もちろん…。でも、一緒に住んでた…おばあちゃんが…『お兄ちゃんなんて最初からいないじゃない。アリスだけよ。』って言ってるの…。」
アリスは不安そうにフェイトの顔を見る。
「そうか…。ロタ君とおんなじ感じか…。」
「それでね…?これを…お兄ちゃんに渡してほしいの…。」
手紙を渡された。
「あー、わかった。無事に届けてやる。」
「ありがとう…。お兄さん…。」
「じゃあな。俺は帰るぜ。元気でな。」
俺は同じ魔法を使って帰った。
「やっぱり真の方は色が綺麗だなぁ。」
そんなに時間が経っていないはずだけど疲れた。一通でこんなに疲れたの初めてだわ。
「ロタ君。そういえば、妹のアリスちゃんから手紙が届いてたよ。」
フェイトは手紙を渡した。
「ありがとう!またお願いします!」
「いつでもいいぞ。じゃあな。」
フェイトは郵便局へと戻っていった。
この日は朝から雨だった。
「フェイト~。今日も大変だと思うが配達よろしくな。」
そういった上司がフェイトの前に荷物をおいた。手紙は3通。その中にロタの手紙も混じっていた。
「じゃあ、配達いってきまーす。」
雨の中、フェイトは魔法を唱え、移動していった。
「雨の中なんで俺はオークに手紙を届けにゃならんのだ…。」
1通目は別の国への手紙。2通目はオークへの手紙だった。
「さてと、3通目のロタ君の手紙を届けに行きますか~。」
彼は魔法を唱え始めた。
【時空魔法 異空間への旅扉】
前のように真っ黒な球体が現れた。
「禍禍しくて慣れねぇな。」
フェイトは意を決して飛び込んだ。
異世界もこの日は雨のようだ。
「こっちも雨か…。ちゃんとリンクしてるんだな。」
フェイトはちょっと感心していた。
「じゃあ、アリスちゃんの所へと向かうか~。」
フェイトは雨の中を手紙が濡れないように走っていった。
「また…来てくれたの…?お兄さん。」
訪ねるとアリスちゃんが迎えてくれた。
「手紙が届いてたぞー。」
手紙を渡した。
「ねぇ…お兄さん…。」
「ん?どした?」
アリスが上目遣いでこちらを見る。
「私を…あっちの世界に…連れてって…?」
なるほど、確かにそっちの方が会えるしいいよな。でも…。
「それは無理なんだ。」
「どうして…?」
「時空魔法による移動は同じ属性の人としか出来ないんだ。」
時空魔法による移動は風魔法や光魔法と違って移動方法が特殊な為、別の魔法属性の人は耐えることができなければならない。強い人ならまだしもアリスちゃんのような子供が耐えられるわけがない。
「そうなの…?なら、しょうが…ないよね。ねえ?ちょっと…こっち来て…。」
フェイトはアリスに付いていった。
「ここね?私たちのね…。思い出の場所なんだ…。」
やって来たのは村の外れにある教会だった。村の中でも一際大きく扉も大きい。
「よくお兄ちゃん…とね?一緒にね。ここにお祈り…しに来てたんだよ…?この村のね…言い伝えによるとね?ここでお祈りすると会えなくなっちゃった人にも会えるらしいの。」
「ってことは、ここでアリスちゃんがお祈りすればロタ君に会えるんじゃないのかい?」
「前にね…やってみたんだけどね…?一回も会えたことがなかったの。やっぱりただの…迷信だったの。」
「なぁ。それって同じ時間にやってみたらどうなんだ?」
「え…?お兄さん…。どういうこと?」
「えーと…。こっちの世界が偽であっちの世界が真。今のこっちの天気は雨だよね。実は向こうの世界の天気も雨なんだ。別世界だけど同じ時間軸、天気…。もしかしたら、世界はリンクしてるんじゃないかって思ってるんだ。」
「私…難しい話…わかんない…。でも、お兄ちゃんに会えるってことだけは…わかったよ?」
「そうか、ならよかった。どうだ?早速今日の夜にでも教会で会う約束しておくか?」
「する…。早く…早くお兄ちゃんに…会いたい。」
「うん。わかった。それじゃ夜の6時ぐらいにしようか。6時になったらアリスちゃんは教会でお祈りをしておいてくれ。」
「わかった…。お兄ちゃんに…言っておいてね?」
「あいよ。」
フェイトは真っ黒な球体に飛び込んだ。兄妹を再会させることができるかもしれない。久しぶりにいいことしたな、と思っていた。
「ロタ君。アリスちゃんから手紙じゃなくて伝言が届いているよ。」
俺は真の世界へ帰るや否やすぐロタ君の家に向かった。
「伝言?」
「うん。今日の夜の6時に教会でお祈りをしてくれないか?」
「お祈り?アリスが言っていたんですか?」
「そうだ。教会には言い伝えがあるそうじゃないか、お祈りすると会えなくなった人に会えるっていう。」
「あれは…ただの迷信です。僕もアリスと別れてから教会へお祈りしに行っていますが会えた試しは一度もありません…。」
ロタは小さく悲しい顔をして俯いた。
「アリスちゃんも言っていたからそれは本当なんだろうな。でも、今までに時間まで合わしたことはないんじゃないか?」
「はい…。」
「だったら、やる価値はあるな。とりあえず、今日の6時にお祈りに行ってくれないか?」
「わかりました。やってみます。」
ロタの顔が笑顔に戻った。それを見た俺は後で教会へ行こうと思いつつ一度家に帰った。
午後の6時。ロタは村の外れにある教会へ足を運んだ。
「郵便局のお兄さんは会えるって言ってたけど本当かな…。」
一抹の不安を抱えながら教会の中へ入った。
「あれ?ロタ君じゃない。2回目のお祈りしに来たの?ふふ…。そんなに会いたい子がいるのね?」
教会にいたシスターが声をかけてきた。
「はい。妹に会いたくて…。」
ロタがそういうとシスターは微笑んで、
「ふふ…。一人っ子だから妹が欲しいのはわかるけど、存在しない子は会わすことができないんじゃないかなと思うよ。」
「いえ、僕にはいるんです、妹が。」
一体何回目になるんだろう?この言葉…。
「ふふ…。信じきれないけどロタ君が言うならいるんでしょうね。もし、妹さんに会えたら私にも見してね。」
そういってシスターは掃除を始めた。
「じゃあ、始めるぞ。」
会えるとはにわかには信じがたいが、会える可能性があるならやらないわけにはいかない。
「全知全能の神よ。今祈りを捧げます。」
長い時間が経ったのか、あるいは刹那の短い時間だったのか、その声が聞こえてくるまでには時間がかからなかった。
『お兄…ちゃん?』
目を開けると目の前にはロタの妹であるアリスが祈りを捧げていた。
「アリス!」
二人は姿を捉えると抱きしめあった。
『お兄ちゃんに…会いたかった…。もう…会えない…かと思った…。』
アリスは泣きながら抱きつく。
「僕もだよアリス。もう、会えないかと思った。」
ロタも泣きながらアリスを迎える。
「やっぱりアリスはいたんだね。僕の…僕の記憶違いじゃなくて良かった…。」
「記憶魔法…持ってるのに…間違えたら…笑われちゃうよ…。」
二人は笑った。教会の中に二人の笑い声が響いた。
「よかったな二人とも…。さてと、偽の方からも見てみるか…。」
フェイトは教会の扉の近くで立ち様子を見ていた。無事に会えたことを確認すると偽の世界へ向かった。
「偽の世界の教会でも、二人は笑って話しているな。」
安心した様子でフェイトは一息ついた。変わってない様子だった。唯一変わっていたところは掃除しているのがシスターじゃなくて神父になっていたところだ。
「さてと、確認も終わったことだし、真に帰るか。」
真に帰るとアリスの姿が少し消えかかっているように見えた。
「アリス…。そろそろお別れだね。また、時間を会わせて会おう!」
『そうだね…。お兄ちゃん…。寂しくなる…けどまた…会えるもんね…?』
二人はそう言ってまた抱きしめあっていた。シスターがロタの方を見て不自然そうにしていた。
「またねアリス。」
ロタはアリスに手を振って
「まてね…。お兄ちゃん。」
アリスはロタに手を振った。消えかかっていたアリスの体はその時、完全に見えなくなっていた。
「良かったじゃねぇか、アリスちゃんに会えてよ。」
「来てくれていたんですねお兄さん。いるなら声をかけてくださればいいのに…。」
「いやいや、流石に二人の時間の邪魔をする気は無いっての。また、会いたくなったら手紙書いて渡しなよ。届けてやる。」
フェイトは家に帰ろうとした。
「はい。またお願いします!」
ロタはフェイトが見えなくなるまで頭を下げていた。
「ねぇ?ロタ君。」
「はい。何ですか、シスター。」
「妹さんには会えたのかしら?」
「はい。会えました。お祈りは成功です!」
「そうなのね…。相手の人の姿は見えないから私からしたらロタ君が一人で泣いて一人で笑っていたように見えたわよ…。」
「あはは…。僕完全にヤバイやつじゃないですか…。では、僕は帰ります。ありがとうございました。」
「いえいえ、またお祈りしに来てね。私も寂しいしね…。」
「フェイトー。今日のお前の仕事は無い。休んでいいぞー。」
久しぶりの休みのような気がした。
「んー。ここ1ヶ月ぐらい殺されそうになったりしながら手紙配達したから休みは嬉しいなぁ。」
休みを取れたとしても、ダラダラしてるだけでは時間がもったいないような気がする。
「あっ。手紙とか関係なしで偽のサテライト国に言って見よーかな。そうと決まれば早速行くか。」
フェイトはいつものように魔法を発動させ真っ黒の球体に飛び込んだ。
「改めてよく見ると本当にそっくりだなぁ。」
偽の国と真の国の建物を比べてみたり、お店の食べ物を比べて見たりしてみたが特に変わったこともなさそうだ。歩いている途中で向こうから知っている顔が歩いてきた。
「あれ?アリスちゃん何処かへ行ってきたのかい?」
「あれ…?お兄さん…?手紙…だったら…受けとるよ…?」
「あぁ。今日は手紙とか無しで偽の国へ遊びに来たんだよ。所でアリスちゃんは何してたんだい?」
「私は…お祈りしてたの…。」
「お祈り?手紙書いて時間決めてくれればまた、俺が手紙を届けてやるのに…。時間が合わないから会えなかっただろう?」
「会えないけど…いいの。毎日の…日課のような…ものだから…。ところで…お兄さん。暇なら…私の家に…来る?」
「いいのかい?行きたいけど両親とかは大丈夫かい?」
小さい女の子が知らない男の人を家に連れこんだなんて両親に知れたらヤバイことになりそうだ。もちろん、誤解だけどな、誤解だぞ?
「お父さんと…お母さんは…。あの時…仕事に行っててこっちに来てないの…。おばあちゃんは…いるけどね。」
「なんだかごめん。変なこと聞いちゃったね。それじゃあ、家に行ってもいいかな?」
「うん…。いいよ。ついてきて…。」
アリスの家までは10分もかからなかった。
「どうぞ…。いっぱいお話ししよ?」
「お邪魔します…。」
「ん?あんた、見ない顔だね、どこの男だい?」
椅子に座っていたアリスのお婆ちゃんらしき人に話しかけられた。
「私は、冒険者のフェイトです。アリスちゃんの依頼を受けたことがあって、たまたま道端であったものですから家に誘われたのです。」
郵便配達人というところだった。危なかった。言ってしまうと後で調べられたときに嘘じゃないのに偽の国だと嘘ってことになってしまう。冒険者だったらギルドに確認しにいかなければならないが、村には無い。故に確認のしようがないってことだ。
「そうかいそうかい。アリスが人を呼ぶなんて珍しいねぇ。最近は、『お兄ちゃんがいない』って言って引きこもりがちだったからねぇ。フェイトさん。どうか、アリスと仲良くしてあげてください。」
「こちらこそ宜しくお願いします。わかりました。」
「お兄さん…こっち…。私の部屋に来て…。」
フェイトはアリスに連れられ部屋に入った。二人で一時間ぐらい話していた。
「お邪魔しました。また来るねアリスちゃん。」
「うん…。またね…?お兄さん。」
お昼ご飯も一緒に食べるかい?と聞かれたがやめておいた。偽の国のご飯も食べてみたい。そう思ってアリスちゃんの家を出た。
「さてと…。この村で唯一の飲食店はこの先のはず…。お、あったあった。」
アリスちゃんの家からちょっと行った先に『レトン』と書かれた看板が見えてきた。
「ここのサンドウィッチはとても美味しいんだよなぁー。手頃だし。味の変わりがなければいいんだけど…。」
俺はコーヒーとサンドウィッチを頼んで街並み…じゃなくて村並みを見ていた。
「本当に変わっていないな。空が青じゃなくて黄色っぽくなっているだけか…。」
ボーッとしていると頼んでいたものが届けられた。
「あっ。普通に美味しい、変わってなくて良かったぁ。大人になって配達人もやってるから村とか国の事は把握してたから発見なんて無いかと思ったけど、子どもに戻った気分だなぁ。新鮮だなぁ。」
食べながら物思いにふけっているとふいに声が聞こえた。
『お前は…どこから来た?私が連れた者ではないな?』
聞こえた瞬間変な汗が出てきた。辺りを見渡してみたがフェイトと同じような現象になっている人は見られない。
「誰だ?どこにいる?」
『ふっ…。我が名は《シュードラ》【次元を司る魔王】だ。この世界を作ったのは私だ。』
その名を聞いた瞬間、冷や汗が止まらなくなってきた。基本的にこの世界で魔王の名前が騙られることはない。有力な理由としては、名前が騙られた人は全員騙った後で直ぐに死亡が確認されている、その事件が多発したせいで騙る人はいなくなった。
「お前…。その名前を語るってことは…。本物…?それとも、死にたがりのバカか?」
『本物かどうかわからない…?なら、証明してやろうか?』
「は?」
『この世界を少し変えれば証明がつくんじゃないか?』
その時、さっきまでフェイトの隣で座っていたおばさん二人組が消えた。しかし、周りの誰も気づいていないようだった。まるで、最初からいなかったかのように…。
「マジで…あの伝説の…魔王…。」
『これでわかったか愚か者。ところで、お前はどこから来た?ここの世界の住人ではないだろう?』
「あぁ。俺は元の世界から来た。ここは偽の世界だろう?」
『ほう?ここが偽の世界、向こうが真の世界だと誰が教えた?』
しまった…。失言だったか…。
『言えないか?まぁ、別に良い。いざとなったら消せば良いだけだからな。変な動きをしなければなにもしねぇよ。じゃあ、さっさと帰りな。』
俺は言われるがままに偽の世界を後にした。
2日後、配達する手紙が1通。偽の世界へだ。
「昨日もあんなことがあったからな…。目をつけられないようにしないとな…。」
一抹の不安を抱えながら真っ黒な球体に…。なぜだかゲートが揺らいでいる。不吉な予感がする。それでも、俺は飛び込んだ。
「なんだここ…。」
偽の世界は真っ黒な空になっており、前来たような風景はなくなっている。人々は外に出ていない。
「真の世界では朝だからこっちでも朝になっていないとおかしい…。一体何が起きてるんだ…。」
『おう。昨日忠告した感じしたけどまた来たのか愚か者よ。』
その声を聞いたとき、一気に汗をかいた。
「あぁ。こっちも仕事なんでね。来ちゃダメだったか?」
来ちゃダメだったか?何て言ってるけど実際帰りたい。仕事放って帰りたい。
『くく。度胸だけは一丁前だな。だけどな、悪いな。この世界は壊すことにしたよ。』
「は?壊すって…。どう言うことだ!」
『あはは、まぁ怒るなって、そのまんまの意味だよ。この世界をぶっ壊して1からニューゲームってわけだ。建て直すより容易だろ?お前にも知られちまってるし、いつ喋っちまうかわからねぇしな。だから、人も殺して建物もぶっ壊す。後は俺がこの世界を閉じとけば誰も入ってこれねぇ。後で別の世界を作ってもう一回おんなじことすりゃ大丈夫っつうことだな。』
「俺の記憶を抜けばいいじゃねぇか!人を殺してまで世界を壊すなら!」
『あのなぁ、お前の事を知っている奴ら全員の記憶を抜いて改竄することがどれだけ大変だと思ってんの?だったら、壊した方が早い。』
「人間ってのは…全員か?」
フェイトは恐る恐る聞いた。
『あ?全員だよ。だからー、記憶を消すよりも全部リセットの方が早えんだよ。』
その言葉を聞いた瞬間、俺はアリスちゃんの家に走った。
『おうおう。最後のお別れの言葉でも言うつもりか?しゃーねーなー。待ってやるか。』
「アリスちゃん!」
家について扉を開けて開口一番いい放った。アリスはビクッと肩を震わせこちらを向いた。
「お兄さん…?どうした…の?」
「実は…。」
今さっきの会話を伝えた。アリスは驚くような事もせず堂々としていた。
「そう…なんだ…。でも…向こうには戻れないから…お別れだね?」
「アリスちゃん…。そういえば、お手紙が届いているよ。」
そういって鞄の中から手紙を1通取り出した。
「ありが…とう。じゃあ、この手紙を…お兄ちゃんに…。」
フェイトは手紙を受け取った。アリスの手が震えたように見えた。
「ここで、お別れになるかもしれない…。ごめんな、連れていけなくて。」
「んーん。お兄…さんのせいじゃ…ないよ?お兄ちゃんに…またねって…伝えて?」
「あぁ。伝えると約束しよう。」
そういってフェイトは外へ出た。
『終わったか?』
「あぁ。終わった。もう用事はない。シュードラ迷惑かけたな。」
『お前は迷惑をかけすぎだな。反省せい。あっはっはっは。』
その言葉を聞いたのを最後に俺はもとの世界へ戻った。あれから何回魔法を唱えて行こうとしても行くことはできなかった。
「あっお兄さん!お手紙の返信はありましたか?」
家の前につくとロタが待っていた。
「ロタ君、大事な話がある。ちょっといいか?」
そういって俺は偽の世界で何があったのかを細かく説明した。
「………。アリス…。そんな、そんな…。」
「あと、これが貰った手紙だ。読んでくれ。」
ロタはすぐさま手紙を受け取った。が、直ぐに読む気にはなれなかった。少ししてから勇気を出して読み始めた。
「手紙ありがとうございました。僕、夢が決まりました。」
「ほう?どんな夢だい?」
「冒険者です!いつか…いつかこの手でシュードラという魔王を倒したいです。」
「はは、そりゃいいこった。それにはとてつもない鍛練がいるぞ?」
「頑張って耐えて見せます。」
笑って解散した。俺はロタ君の寂しそうな顔を忘れることはないだろう。
1週間後…。
「んー。今日も休みか…。」
俺は『レトン』に来ていた。ボーッとサンドウィッチを食べているとなんだか教会へ行きたくなった。
「アリスちゃんにもう一回あわせてやりてぇーなぁ。ロタ君も誘ってお祈りしてみるか…。」
残りのサンドウィッチを直ぐに食べ終えてロタの家に向かった。
「ロタ君~。教会でお祈りしてこーぜ?」
「いえ…。あれから行かないことにしたんです。思い出すと悲しくなってしまうので…。」
「まぁまぁ、そんなこと言わずにさぁさぁ。」
半ば強引にロタを家から連れ出して教会へ向かった。
「あら?ロタ君!久しぶりね…と、初めての方ですか?ようこそ村の教会へ。ここではお祈りすると会えなくなった人に会えるという伝説が残っています。」
フェイトはなにか引っ掛かったような気がした。
「会えなくなった人?死んでしまった人ではなくて会えなくなった人?ということは…。」
「お兄さん?何か言いま…。」
ロタが小声で呟いているのを聞こうとしたのを遮って。
「ロタ君!アリスちゃんにもう一回会えるぞ!」
いきなりの大声にビックリしたようだが、聞き返してきた。
「うわっ!?いきなりの大声やめてください…。え?アリスに会える?」
「あぁ。俺の予想が正しかったら会えるぞ!さぁ、お祈りだお祈り!」
フェイトとロタは2人で祈り始めた。
「「全知全能の神よ。今、祈りを捧げます。」」
長い時間が経ったのか、あるいは刹那の短い時間だったか…。その声が聞こえてくるまで時間はかからなかった。
『お兄…ちゃん…と、お兄さん…。』
目を開けると目の前にはロタの妹であるアリスが佇んでいた。
「アリス!もう…会えないかと思ったよ…。」
ロタがアリスを抱きしめた。
『私もね…会えないかと…思った…。会えて…嬉しい。』
「これで、いつでも会えるね!」
「喜んでいるところ悪いが。多分…ずっとは会えないと思うよ。」
「『なんで…!』」
2人の声が揃い、顔も同時にフェイトの方に振り向いた。
「あー。消滅と死亡の違いだと思う。どういうことかって言うと…」
死亡は例外はあるが敵や誰かに殺された時に死亡扱いとなる。死亡扱いってことは魂は抜けて、元の体が血を流している状態なら死へと近づいている状態だ。その時、魂が抜け出すが、自分の体を上から見下ろすことができる。そこで、心が弱い人は生きる選択肢を諦め素直に天へと昇る。心が強い人でも2~3日経てば諦めて天へと昇る。
例外は、体に損傷がない場合だ。損傷がない場合は魂も気づかないので、直ぐに天には昇らずに1週間ぐらい空中に浮遊している。それを過ぎると天へと昇る。
そして、消滅の場合である。消滅は死亡とは違う扱いとなる。消滅すると体は無くなってしまう。しかし、魂だけは浮遊している。魂は体を確認できないので生か死か分からない状態になる。そうすると、最大で1ヶ月の間、魂は生前と同じ生活を送る。しかし、誰にも認知されない事を感じると自分は死んだと確信して天へと上っていく。
ここまで、説明すると2人はポカンとしていたので慌てて、
「簡単に言うと、死亡の方は生き返らせるのが難しくて、消滅しちゃうと、そもそも体が無いから魂は生きてると思って気づくまで同じ生活するから、ちょっとだけ長く世界に居ることができるんだよ。」
ロタ君はなんとなく頷いてくれたけど、アリスちゃんは頭を傾げている。頭に?が見える感じになっている。
『よく…わからなかった…けど、もう、会えなくなることは…わかった。』
「うん。今、教会で会えている時点でアリスちゃんは居なくなっているからそろそろアリスちゃんとお別れだよ。」
『ねぇ、お兄ちゃん…。』
「どうした?アリス…。」
『これを…受け取って…。』
そう言うと、アリスは首にしていたネックレスを取って手渡した。先には十字架が付いている銀色のネックレスだ。
「これって、アリスに上げたネックレス…。どうして…。」
『もう…会えなく…なっちゃうから…。私は…お兄ちゃんの…妹だから…。私が…ここに…いた証拠…。私は…消えちゃうけど…いつでも私は…お兄ちゃんに渡した…ネックレスに居るから…。いつでも…私を…思い出してね?』
アリスは泣きながらロタに抱きついた。そんな妹の頭を撫でながら、
「当たり前だ。このネックレスはアリスが生きていた証拠だ。アリスの事を忘れたりなんかしない。記憶魔法を持ってるのに忘れたら笑われちゃうもんな。」
ロタがそこまで言うとアリスの体が少しずつ光に包まれていく。
「あぁ。魂が天へと昇るときが来たようだ。」
初めて見るがとても幻想的だ。
『お兄ちゃん…お兄さん…。ありが…とう…。私、今まで…楽しかったよ…。』
「アリス、僕もだよ。僕も楽しかった。このネックレス大事にするから!」
『じゃあね…。私の…お兄…ちゃ────────。』
アリスの言葉の途中で光が全て天に昇っていった。
「うっ…。うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
ロタはその場でうずくまり、大声で泣き出した、少し大人びているがまだ子供。妹が居なくなれば当然の結果だった。
「………。」
フェイトは何も言えず立っている。
「最後の光…。誰かが天へと旅立っていったのですね。」
「……はい。たった今。」
「光を見る限り、とても幸せそうに旅立って行きましたよ。」
それはフェイトにも分かっていた。あの綺麗な光はそうとしか思えない。
「さぁ、ロタ君、そろそろ帰ろう。暗くなってきて家の人も心配するかもしれない。」
「ぐすっ…。は、はい。帰り…ます…。」
泣いているロタを起こして2人で外に出ていった。シスターは何も言わずにこちらを見ていた。
「お兄さん。今日はありがとうございました。おかげでアリスともう一度話すことができました。」
「あぁ。いいよいいよ。それより、そのネックレス大事にしなよ。壊れても知らないぞ?」
「壊したりなんかしませんよ!大事な妹の形見ですからね!」
ロタはネックレスを撫でて笑う。
「じゃあな、ロタ君。また手紙があったら言ってくれな。俺に不可能はないぞ?」
「はい、頼りにします!」
フェイトは帰路についた。
次の日…。
「フェイト~。手紙が1通来てるぞ。久しぶりの仕事じゃないか?」
「まじ?どれどれ?あぁ、分かった行ってくる。」
「やぁ、来たよ。ロタ君、俺ってことは一筋縄ではいかない手紙なんだな。」
音を出すと中からロタ君が出てきた。首にはペンダントがかかっている。
「はい…。実はアリスへの手紙です。」
「アリスちゃんに手紙?え?昨日天に昇ったはずだけど…?」
「天に昇ったんですよね?だから、今度の手紙の住所はここです。書いてますよ。」
フェイトは差出人の住所を見ていた。
「あれ?こっちか…。えーと?天国?え?!天国?!」
「アリスは天に昇ったんですよね?だから、天国のアリスに手紙を出そうと思いまして。」
「いやいや、流石に不可の…。」
「え?不可能はないですよね?」
そういえば、昨日そんなこと言ったような…。
「あーー。よっしゃやってやらぁ。俺は不可能が無いからな。時空魔法で天国にでも行ってやる!」
「お兄さん!かっこいい!」
「照れるねぇ。あと、お兄さんじゃなくて俺はフェイトだ。フェイトって読んでくれればいいぞー。」
「わかりました!フェイトさん!ペンダント大事にしてるよーって言っておいてくださーい。」
「あぁ、言っておこう。それじゃあな。」
ロタのペンダントがキラリと光った気がした。太陽が照り付ける中、フェイトは手紙を配達しに行った。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
え?飛ばした?これから、ちょっと内容に触れるから本文を読むか、後書きをちょっと飛ばしてねー。
今回、ロタ君は手紙を出しました。最近だとLINEが復旧していて手紙なんて年賀状ぐらいしか送らないですよね~。しかも、こんな兄妹羨ましいです。みんなが忘れていく中、自分だけは忘れずに妹へ手紙を送る…。僕も妹がほしかった。弟が居るんですけどね、弟も可愛いんでいいです(*´ー`*)
はーい。とばしちゃった人戻っておいで~。もう大丈夫だよー。後書きとかって何書けばいいのか分からないのでここまでにしたいと思いまーす。
ここまで、ご愛読ありがとうございました!
また、短編や長編を更新したいので、その時は宜しくお願いします!
では、また!<゜)))彡