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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鼠算クイズ

作者: 三好英治

年末に開催された史上最大のTVショー、視聴率はどの位とれるのだろうか?

      鼠算クイズ

              三好英治

 高らかに響き渡る口笛の音やざわめきの中、薄暗い会場に光る幾つものスポットライトが特設ステージに、まるで櫛でも指すように一点に中央にある椅子とテーブルを照らしている、ここは東京ドーム、四万人近い観衆が待ちわびているイベントが今まさに始まろうとしている、上空には2機のヘリが舞飛びイベントの中継をしている様子だった、ステージと観客席の袖の狭い間にひざまずきイベントの進行を注視する、私は門倉章子、28歳独身、6年前に地方の大学を卒業後、この東京にやってきた地方は景気が今だ良くならず私が希望する就職先もなく仕方なく自分がやりたいテレビ番組制作の仕事を求めてやってきたが現実は厳しくテレビ局には入れずテレビ局の下請けの仕事もしている派遣会社に入社し現在に至っている、彼氏もいないし給料も安いしボーナスもない何一つ良いことはないが好きな番組作りが出来るのが最大の喜びになっていた、十二月三十一日の午後8時のスーパーゴールデンタイムが近ずこうとしている、周りのスタッフの動きが激しくなってきた進行役を務めるADの私もひざまずいてはいられない、ディレクターからの指示を待った、このイベントはライブ中継で国内だけでなく世界68ヶ国に同時中継される視聴率82パーセントを誇る年末の国内最大イベントになった、民放で最大の視聴率をとり世界中で見られるのは初めてのケースとなった、いよいよ5分前、司会の新舘次郎とテレビ局の女性アナウンサーがステージに上がってきた、中継するカメラは6台、上空のヘリのカメラが1台、映像がステージの大画面に写し出される観客席の様子を映し出されると歓声が起きる、ディレクターからの指示が耳元のヘッドフォンから聞こえてきた「門倉、準備はいいか3分前、抜かるなよ」、思わず私は台本を持った手を握り締め「はい」と答えた、ステージの一番前の特別席には、この番組のスポンサーであるアメリカのオールドブック社の最高経営責任者でまだ若いザツカヤバック氏が陣取っていた、日本でのソーシャルネットワークのサービスを、もっと普及させる為日本でのマスコミを通じて広報活動に努めてきた、その願いが通じたのかこの番組を通じて日本中世界中にオールドブックの会員数が飛躍的に増大した、いよいよカウントダウンが始まった十秒前、九、八、七、六、五、四、三、二、一、スタート、日本中世界中に流される映像がステージの大画面に映し出された若者達が手に手にタブレットを持ち町中を走り回る映像が映るオールドブックのコマーシャルフィルムだ、ソーシャルネットワークを利用することにより世界中に友達の輪を広げる内容のCMだ、この映像が延々続いた、さぁー私の出番だ、ステージの下から司会の新舘次郎に番組のスタートの合図を送る、さぁー始まった世界最大のイベントの始まりだ、新舘次郎がしゃべり始める、「さぁー、鼠算クイズの始まりです秋に始まり大変な人気でここまできました、政権与党や大河ドラマの人気が落ちる中、この番組だけが視聴率を上げてまいりました年末の日を迎えたわけでございますが、後数時間で新しい年を迎えます、今年はデフレや嫌な事件も多く何一つ良い年ではございませんでした、来年こそ飛躍的に良い年になることを願うばかりです、スタンハンセンのラリアットを喰らうような衝撃の番組ではございますが衝撃が大きすぎる故、皆様とこの番組を通じて世界中の人々が繋がっていただければと思います」、相変わらず、あの司会者何を言っているのか分からないと私は思った、続けて新舘次郎は「さぁー、今夜の回答者をお呼びしましょう、ここずうっーと勝ち続けて、この最高の日の最高に栄誉ある椅子に座って頂きます、岡田かずちかの飛び蹴りのように誰よりも高く天に達する勢いの金の雨を降らすレインメーカーは猫田泰蔵さんです、どうぞお席の方へ」少しうつむき加減で、とぼとぼと椅子に向かう回答者を見て観客はため息ともつかぬ唸り声を発した、席に着いてもうつむき加減で、じぃっーと前を向いたまま身動きもしない、眼鏡の左目の方は牛乳瓶の底が張り付いた様なレンズで、その中に映る目はレンズいっぱいに拡大された巨大眼球であった、そして右目はレンズが外れており横に一文字に髪の毛が一本張り付いた様な糸目で、じぃっと前を見つめていた、髪の毛は肩まで伸びる長髪で何とも言がたい雰囲気を醸し出していた、近ずけば近ずくほど物凄い体臭がした、新舘次郎が少し顔を背けながら回答者に「今日はよくいらっしゃいました、猫田さんは年末の特別番組の前に十五問を連続して回答を続けここにおられます、二千人を超える応募者の中で、ただ一人テストを100点満点で通過された最強の回答者です、引き際が大事なクイズ番組ですが何問まで進めるか楽しみですね、さぁ次の問題にチャレンジしていただきます、猫田さん、もし、もしもの時ですよ、途中で答えを間違えれば今まで獲得した賞金は全部パァーとなり一番最初の賞金一万円に戻りますがよろしいですか?」、猫田は静かにうなずいた、そして九問の問題も全て答え続け三時間の特別番組も余すところ残り一問だけとなった、勝ち続ける度に場内の興奮度が上がり最後の一問となって頂点となった、ステージの袖から二人のガードマンが登場し手には黒い鉄製の鍵のついた箱を持って新舘次郎と女性アナウンサーの座るテーブルの上に置いた、新舘次郎が力強く発した「最後の問題が入った箱が到着しました、さぁ、二十五問目の問題です、僅か二十五問の回答でここまできました本当に鼠算式というのは怖いですね、さあー、ついに二十五問目で一千六百七十七億七千二百十六万円の賞金です」その瞬間、あちらこちらで観客がどよめき場内に唸り声が走った箱の鍵を開け中から封筒を取り出し、おもむろにペーパーナイフで封筒を開け紙を取り出して小刻みに震える女性アナウンサーが問題を読み始めた、その瞬間私は何てことをしたんだろうと思った、あの箱の中の問題を独断ですり替えたのは、この私で途方もない賞金一千六百七十七億七千二百十六万円の原因を作ったのもこの私だ、もし猫田泰蔵が私の作った問題を回答したならばと思うと責任の重さを感じ私の心に動揺が走り場内の騒がしさが少しずつ聞こえなくなり問題を読む女性アナウンサーの唇の動きだけが私の目の中に映った、私に何も聞こえない静寂が続いた・・・・・そう、あれは今年の初め頃だった、いつものようにテレビ局に出社しデスクに腰掛け夜のバラィティー番組の放送の準備をしているときに一本の内線電話が入った、それは担当ディレクターからの電話だった、「門倉君、十階の会議室まで直ぐに上がってきてくれ」私は「はい」と答え直ぐに廊下に出て突き当りのエレベーターに向かった、エレベーターの中で「何の用だろう」と私は思った、派遣社員の私に会議室に呼ばれることは今まで無かったのにと疑問の思いに駆られた、会議室をノックし静かにドアを開けた見覚えのあるスタッフ達とディレクターが座っていた、ドアに一番近い椅子に静かに座った、何か場違いな所へ来た感じだった、暫くして編成局長が入って来て正面のディレクターの横に座った、開口一番「お疲れ様です、今日お集まり頂いたのは日本最大の広告代理店より秋の新番組制作の依頼が舞い込みました、それも日曜日の夜8時のゴールデンタイムの番組の依頼です、スポンサーはあの世界最大のソーシャルネットワークサービス会社のオールドブック社です」それを聞いたスタッフからどよめきが起こった、続けて編成局長が「製作費も従来の三倍強の予算を頂いているが但し必ず20パーセント以上の視聴率を叩き出さないと直ぐにワンクールで番組を終了するというのが条件だ」スタッフから、それはなかなか難しいと言うつぶやきが漏れ聞こえた、編成局長は「従来型の在り来たりの番組ではスポンサーの理解は到底得られない、そこで君たちにまったく新しい発想のもと企画案を早急に考えてもらいたい」、横に座るディレクターが「今回、我社の社員だけで企画をするつもりであったが日頃より番組制作に熱心な門倉章子君に加わってもらうようにしました、皆さんよろしくお願いします」その時、私は本当に嬉しく思いディレクターに感謝をした、編成局長は「この中の二十名近いスタッフに企画案をお願いする、あまり時間がないので、二ヶ月後この会議室で企画案を提出してもらう事にした皆さんの検討を期待している、以上です」と編成局長は立ち上がり会議室を出た、私は興奮のあまり、どうして会議室から自分のデスクにもどったか記憶に無いぐらい興奮していた何かいい企画はないか頭の中で駆け巡った仕事が終わり家に帰ってもその事ばかり考えるようになった企画に何か参考になるものはないかと休日毎に図書館に通った、それも出来るだけ大きな図書館に行った、目に止まった本を熟読して、それでも満足できなかったら本を借りて帰った、その時私の目に吉田光由が著した塵劫記が目に止まった和算の鼠算の内容が記されていた「正月にねずみ、父母いでて、子を十二ひきうむ、親ともに十四ひきに成也。此ねずみ二月には子も又子を十二匹ずつうむゆえに、親ともに九十八ひきに成。かくのごとく、月に一度ずつ、親も子も、まごもひこも月々に十二ひきずつうむとき、十二月の間になにほどに成ぞといふときに、二百七十六億八千二百五十七万四千四百二ひき。」うーむなるほど、現代語訳では「正月に、ネズミのつがいがあらわれ、子を12匹産む、そして親と合わせて14匹になる。このネズミは、二月に子ネズミがまた子を12匹ずつ産むため、親と合わせて98匹になる。この様に、月に一度ずつ、親も子も孫もひ孫も月々に12匹ずつ産む時、十二ヶ月でどれくらいになるかというと、276億8257万4402匹となる。私は驚きを持った、この数の方式を今回の企画に使えるのではないかと考えた、従来の在り来たりの番組では今回の一件は通用しない、この数式を利用すれば人々の度肝を抜くような番組が出来るのではないかと思った、そうだクイズ番組を作り鼠算式に増える天井知らずの賞金を出せば人々の興味を一心に引きつけ高視聴率が取れると思った、私は企画書の制作に没頭した、「とりあえず、最初の一問目の賞金を一万円からスタートし、その後は鼠算式に倍々となっていく方式をとろうと思った、一問目から五問目までが答えを二択とし六問目から十問目が三択、十一問目から十五問目四択、十六問目から二十問目五択、二十一問目から二十五問目までを六択、徐々に複雑怪奇にしていき問題内容は全てのジャンルから幅広く出すようにした、最初は司会者にテンポを早くしてもらい、そして出来るだけ簡単な問題を出し賞金が上がっていくほどに司会者にテンポをゆっくりと進めてゆき問題を難しくしていく方法をとれば、いくら天井知らずの賞金でも限界が有る筈、そして答えた時点の問題で回答者が先に進まなければその時点の賞金が貰えるが、もし先に進んで問題を間違えると今まで獲得した賞金は無くなり最初の賞金一万円に戻ってしまう企画を設定した、これでどうだろうと私は思った、しかし、もし、もしもの時天才が現れ問題を解き続ければ鼠算式に賞金が増えると大変な事になり何千万、何億円という賞金を出さなければならない、こんな事が有ってはならない、しかし、それは不可能だ、そんな事はあり得ない、なぜって問題はこちらサイドが一方的に作るのだから回答者が絶対に答えられない問題を作ればいい、よし、これでいこうと」私は思った、ついに企画案を提出する日がやってきた、私はやはり会議室の一番ドアに近い隅っこに座った、暫くするとディレクターと編成局長が入ってきた、編成局長が「お疲れ様です、今日はお集まり頂き有難うございます、それでは企画案を提出していただきますが企画案を各自がどのような意図で作成したか一人ずつ説明をお願いします」と前からスタッフを指名していった多種多様な企画案が各スタッフから出されていった、いよいよ私だ、説明を懸命にしているが声がうわずっている果たしてこんな説明で納得させる事ができるのか疑問に思った、全員の説明が終わり企画案をディレクターが集めた、編成局長が「今から企画案を幹部会にかけて三つに絞り込みたいと思います、明日、結果を発表しますので、この会議室に午後三時にお集まり下さい」と立ち去った、スタッフ全員自分の企画が最高だと考えていた、翌日の午後三時がやってきた、会議室に全員が集まった編成局長がおもむろに三通の書類をテーブルに置いた「皆様ご苦労様です結果発表をいたします、幹部会で検討の結果、次の三点が選ばれました、横尾君の「剣豪世界一、この企画を発表いたします、世界に名だたる剣豪たちの歴史的資料を基に、あらゆる角度から剣の技術を精査し歴史に名を刻んだ強者を選び世界一を決めるという案です、たとえば時代が違う宮本武蔵対柳生十兵衛の戦いをCGを駆使し再現するという企画です、これは何処の放送局も試みたことのない初めての企画です、これを実際に再現してみるとなかなか面白そうな番組が出来るのではないかと思われます」そして、次は鈴木君の名監督発見という企画案です、学生、社会人、フリーター、主婦、高齢者のまったくのアマチャが自分で台本を書き自分で演出をし本物のそれも一流の男優や女優を使って30分間のドラマを作るという企画です、これも、なかなか面白い番組が出来そうです」と編成局長が嬉しそうに言った、「最後に門倉君の鼠算クイズもスリリングな展開のクイズ番組になりそうで楽しみです」と締めくくった、私は「やったー」と思った、候補に選ばれ、もし私の企画案が採用されて視聴率を取れれば私にチャンスが広がってくると思うとワクワクする思いに駆られた、最後にディレクターが「この三つの企画案を英語に翻訳し広告代理店を通じてアメリカのオールドブック社の最高経営責任者のザツカヤバック氏の元に送り裁定を待つザツカヤバック氏はまだ大変若いので新しい発想の案に期待が持てると思われます結果が分かるのは今月中です」と締めくくった、私は通常業務をしながら月末が来るのが待ちどうしかった、テレビのニュースでは各地で梅の開花がちらほら聞こえる中、月末がやってきた候補に選ばれた三名が会議室に呼ばれた編成局長の前に三名が立ち結果報告をした、「アメリカから今朝我が社に連絡が入りました、その結果、門倉章子君の鼠算クイズに決定いたしました」私は小刻みに震えた「社員でもなく派遣会社の私が選ばれるなんて」と思った、編成局長は「ザツカヤバック氏は門倉章子君の案を大変気にいられ企画はこれしかないとおっしゃったそうです」私は興奮のあまり「有難うございます」と小さな声で言った、最後に編成局長は「直ぐに秋の新番組の準備に取り掛かってくれ」とディレクターに言った、番組の骨格ずくりをミーティングで話し合われた取りあえずスタジオを何処にするか、スタジオのレイアウトをどのようにするか司会者を誰にするかを話合われた、その結果、スタジオは一番大きな301スタジオと決まった、スタジオのレイアウトについては回答者の後ろに高さ7メートル幅12メートルの大画面を置きスタジオに毎回150名の観客を招きライブの雰囲気を出すことで全員が一致した、次は司会者だ、これには戦線諤々なかなか一致することが出来なかったがディレクターより一つの案が出され「この番組にふさわしいアクの強い人がいいのではないか」という提案だった、私はなるほどと思った、あるスタッフから「ディレクター、アクの強い人間だったら、やはり大阪人の毒気の強い全国的にはかなり名が通っている、シンガーでもある、あの方はどうでしょうか、ディレクターは「うーむいいね、しかし彼は今は病気療養中だ、ほかに誰かいないかね」その時私は「新舘次郎さんはどうでしょうか、あの方は元民放アナウンサーでプロレスのリングアナウンサーを長年やられ独特の語り口で番組を盛り上げてくれる他に類を見ないアナウンサーですし大変人気を得たアナウンサーです、今はフリーで活躍しています」ディレクターが「それはいい、それでいこう、しかし彼は平日の夜は二ユース番組で忙しいだろうし日曜日は休養を取りたい筈だ、もしかしたら断ってくるかも知れない編成局長は彼と面識があると聞きましたが何かいい案は有りませんか?」と聞くと編成局長が「いや大丈夫だよ、彼はお金にどん欲だから通常のギャラの倍払えば大丈夫だよ」と言った、私はギャラまで鼠算的になってきたと思った、そこで私は編成局長に「賞金なんですけど番組の制作費の中で賞金を出すというのは限界が有ると思うんですけど」と質問をした編成局長は「そう、その通りだ、けれども今回は違うスポンサーが全面バックアップをおこなってくれるとの事です、二億や三億の賞金ぐらい平気な会社ですから、その代り必ず二十パーセント以上の視聴率を取ることが絶対条件です、それから番組のスタートは今年の10月7日の日曜日の午後8時が第一回の放映で第一回から第三回までは芸能人大会とし、この年の話題となった芸能人を集めて欲しい第四回以降は一般の回答者でいこうと思う、但し回答者はテストを受けてもらい上位で高得点を取られた方だけを出場してもらおうと思う」と締めくくった、一ヶ月が過ぎて進行状況の確認の為のミーティングが開かれた、ディレクターがスクリーン担当のスタッフに「大画面のスクリーンは期日までに間に合いそうかね」と尋ねると「あの大きさのスクリーンは到底期日までに間に合いそうにありません」ディレクター「そしたらどうするの?」と問いかけた、スタッフが「いろいろ検討しました結果、薄型テレビの大手メーカーが韓国との価格競争に敗れて価格が暴落し危機的状況となっておりますので、その会社を助ける意味でも生産過剰の42インチのスクリーンの画面の枠を取り省きアルミ製の型枠にはめ込み、あの大きさの大画面のスクリーンに仕上げるつもりです、そうすることにより、かなり安く制作することが可能となり期日に間に合わせる事ができます」ディレクターが「それはいいじゃないか」と言った、続けて「司会者の手配はついたかね」とたずねた、スタッフが「はいOKです、一つ返事でOKを頂きました、但し、条件を出してきまして」ディレクターは「どんな、条件だね」と聞き返した「実は事務所側より、番組で20パーセント以上の視聴率を取った時にはギャラに色をつけて欲しいと言ってきました」ディレクターが「通常の倍のギャラを出しているのに足元を見やがって、よくそんな事が言えるな」と憤慨した、ディレクターは「門倉君、君の方の出題の準備は大丈夫かね」私は「はい、社内の今まで他のクイズ番組で実績のある専門スタッフで問題を制作中です有識者のアドバイスも受けるようにしております」ディレクターは「それは、完璧だね」と安心した様子で言った、暑い暑い夏が終わり放送が目の前に迫ってきた、スタジオの準備も終わり司会者との打ち合わせも何度も繰り返した、私の担当している出題の準備も、ほとんど出来上がった後は10月7日の日曜日を待つだけとなった、あっというまだった、「光陰矢のごとし」とはこの事だと私は思った、第一回はその年の話題性のある芸能人が出場する為その人の話題にまつわる問題を何問か入れるよう要請してあったスタジオの機器の調整や進行状況のリハーサルを繰り返しおこなわれた、準備万端、本番を待つだけとなった、10月7日がやってきたスタッフ全員朝から大忙しだ放映二時間前には今日出場する芸能人も出揃った大画面の前で最初のゲストと新舘次郎と女性アナウンサーの三人がオープニングを待った、さあー本番を迎えた、新舘次郎が「こんばんは、十月に入り、あれだけ暑かった今年の夏も終わり秋の訪れを感じます今日この頃、ついに今まで無かった新番組の登場です、とにかくこのクイズに答え続ければ途方もない天井知らずの賞金が出るという驚きの番組です」隣に立つ女性アナウンサーが「本当ですか?何千万、何億円でも構わないんですか?」新舘次郎は「本当です、嘘も隠しもございません、テレビをご覧の皆様、スポンサーが飛ぶ鳥をも撃ち落とす勢いの、あのオールドブック社でございますオールドブック社がこの番組を全面サポートをし天井知らずの賞金を保証するという輝かしい新番組となりました、だから回答者の皆様も安心して勝ち進みルーブル美術館のモナリザの絵を競売で競り落とせる位の賞金を稼いで頂きたいと思います、さあー、第一回の最初のゲストは漫才コンビ専務・常務の山田純一さんの登場です、さあーどうぞ、こちらの方へ「山田さんクイズの自信のほどは?」山田純一は「いや、有りません、ここんとこ暫くテレビに出ていなかったもので」新舘次郎は「まあ、ご謙遜をおしゃいます、まあー今年は色んなことが有りましたがめげずにとにかく賞金を稼いで、お母さんに親孝行をして頂きたいと思います、さあ、第一問の問題です」隣の上品で気位が高そうな女性アナウンサーが読み上げる「第一問、一万円の問題です、日本で平成二十年度の生活保護受給者のもっとも多い都道府県は、A東京、B大阪」山田は自身ありげに「B」と答えた、新舘次郎は「正解、一万円の獲得です」すると彼らの後ろにある大画面の右の方から小さな灰色のねずみが一匹出てきて画面の真ん中の一番下で止まった、新舘次郎が「ご覧の皆様、このねずみ一匹が一万円の証です、続いて第二問二万円の問題です」女性アナウンサーが「最近、日本に配備された米軍の垂直離着陸機の名称はAオスプレイ、Bメスプレイのどちらでしょうか」山田は「A」と答えた、「正解」すると画面の左右から一匹ずつねずみが出て来て、さっきの一匹の鼠の背中の上に二匹のねずみが鼻を突き合わせるように止まった、続いて第三問四万円の問題です「森口尚史氏の世界初と主張した臨床試験で使用されたと言ってる、いま話題の細胞は、A、GPS細胞、B、iPS細胞」「Bです」「正解、四万円の獲得です、いやぁー調子がいいですね」すると画面の左右から灰色のねずみが出てきて二匹のねずみの背中の上に二匹ずつ鼻を突き合わせて並んだ、第四問八万円の問題です「この度、80歳でエベレストに挑戦する方は「A三浦雄一郎、B小松由佳」「A」「正解」すると左右から四匹ずつのねずみが出てきて四匹のねずみの上に並んだ、次に三択になります、第五問十六万円の問題です「巨匠リドリースコットの最新作はなんでしょう」「A、プロメテウス、B、アウトレイジ」、「A」、「正解」すると左右から八匹ずつ計十六匹のねずみが一列に並んだ、次に第六問三十二万円の問題です「iPADのメーカーはA、オレンジ、B、アップル、C、グレープ」「Bです」、画面に三十二匹のねずみが並んだ「正解、山田さん、やりますね親孝行ができますよ、さあ第七問六十四万円の問題です」女性アナウンサーが「日本人の一番多い血液型はなんでしょうか、A、A型、B、B型、C、O型」「Aです」「正解、六十四万円の獲得です」すると画面に六十四匹のねずみが一列に並んだ、「第八問、百二十八万円の問題です」「最近、顔にハートの模様のついた鯉が発見された公園は「A、兼六園、B、栗林公園、C、水前寺公園、「はいAです」、「正解です」画面にねずみが百二十八匹並んだ、「第九問二百五十六万円の問題です」「今年のノーベル平和賞の受賞団体はA、AU,B,EU、C、QU」「Bです」、「正解です、いやぁーすごいですね、二百五十六万円の賞金です、さぁ続けてまいりましょう」、「これより四択となります、第十問五百十二万円の問題です」「マイケルジャクソンの1988年に行われたBADワールドツアーなかでも伝説といわれるロンドン公演の会場は「A、ウェンブリースタジアム、B、ホワイトシティスタジアム、C、エミレーツスタジアム」「Aです」「正解です」画面のねずみが五百十二匹並んだ、画面に見事なねずみの逆ピラミッドが出来た、第十一問、一千二十四万円の問題ですがこれより四択となります、答える制限時間も30秒から1分間となります」すると座っている山田純一が新舘次郎の方を見て「この辺で終りたいんですが」、この瞬間、新舘次郎の目が引きつった目だけの会話が始まった?「何を言っているんだ、会場がこんなにも盛り上がっているのに貴様はここで止めるつもりか貴様は芸能人か場の空気というものを読め情けない奴だ・・・そうは言っても、あの一件以来、仕事は減るし収入も減るし次の問題を間違えると一万円でしょう、今まで稼いだ五百十二万円は今の俺にとっては大金だ・・・何を言ってるんだ、貴様にギャラを出しているじゃないか・・・それは交通費を含めた僅か二十万円でしょう、合わないですよ?そういうやり取りが延々続いた、新舘次郎が口火を切った「山田さん、次には進まず、ここで終りますか終われば五百十二万円、次の問題を答えると倍の一千二十四万円、さあーどうされますか」暫く考えて山田は「進みます」「さすが男の中の男、さあ次の問題です」女性アナウンサーが「2010年時点における生活保護不正受給件数はA、2万4139件、B、2万5355件、C、2万6843件、D,2万8711件」山田は「また生活保護の問題ですか、なんか嫌味な番組ですね」山田は制限時間いっぱい考えて答えた「C」、新舘次郎は山田の顔をじいーと見つめて少し口を尖らしながら言葉を発した「残念、答えはBです」後ろの画面の向かい合った、ねずみが共食いを始め賞金の証のねずみはどんどん消えていった、そして最後に最初の一匹のねずみだけが残った、新舘次郎は「山田さん、残念でした一万円の賞金です、また次の機会をお待ちしております、テレビをご覧の皆様、第一回鼠算クイズは如何でしたか、クイズ番組と言えどもこんなに興奮するとは思いませんでした」女性アナウンサーも「そうですね、本当に興奮しました」、新舘次郎は「それでは、来週までさようなら」これで山田純一の出番は終わった、翌週の放送がやってきた、新舘次郎は「さあ、今夜のゲストは映画や舞台で活躍中の俳優の前島健一郎さんです」前島健一郎がステージにさっそうと上がってきた容姿は背が高く身なりをきっちとし上下の背広を着こなしていた、会場の女性客から歓声が上がった、新舘次郎は「今日は良くお越しになりました、前島さん、今年は大変でしたね」「そうなんです、あの一件で7キロ程痩せました」「もてる男は違いますね、憎いねこの色男、さあ、第一問目の問題です」女性アナウンサーが「二股をかける男の特徴は、A、自信家で劣等感が強い男、B、生真面目で誠実な男」前島健一郎が「最初からこんな問題ですか、答えはB、いやAです」「正解です」そして前島健一郎は勝ち進み十二問目の問題となった時に「もうそろそろ、この辺で」また新舘次郎の目が引きつった、その瞬間、また目の会話が始まった、「なぜこんな時に止めるんだ全国の多くの人が見られてるのに何を考えてるの、ええかげんにして下さい・・・そんな事言うたってあの世間を騒がした一件以来、イメージが地の底まで落ちてしもうて女性は近ずかなくなるは仕事は減るし、どうしょうもない時期が続いているときの賞金一千二十四万円は大変有難いし暫くの間食っていける金額です・・・それは分かるけどなんとか続けて下さい、あなたが全国の人に男らしさを発揮しイメージアップに努めて下さい・・・分かりました?新舘次郎は「それでは二千四十八万円の問題です」女性アナウンサーが「二兎を追う者は一兎をも得ず」の中国語での同じ意味はどれA、鶏飛穿打、B、鶏飛窮打、C、鶏飛蛋打、D、鶏飛威打」前島健一郎は時間いっぱい考えた後、「嫌味もここまでくると最悪ですね、答えはBです」新舘次郎は、又もや前島の顔をじいーと見つめて少し口をもっと尖らしながら言葉を発した「残念、答えはCです」その瞬間、前島健一郎の膝は震え上がり立てない様子だった、そして新舘次郎を見返し目を射抜いた、前島健一郎の出番はここで終った、放送終了後、新舘次郎はディレクターに「二回の放送を終わって視聴率の方はどうですか」と尋ねた、ディレクターは「新舘さんのおかげで何とか二十パーセント台をキープしております」、新舘次郎は「そりゃ、良かった、ところでギャラに色をつける話、宜しくね」と言って立ち去った、第三回目の芸能人大会の放送を向かえた、新舘次郎は「今夜のゲストは、あの何かと話題の塩尻ソデカさんです、どうぞ宜しくお願いします、塩尻ソデカさんは暫く休養の後コマーシャルやテレビや映画で活躍中です」なんとも言いようのない色気を感じさせる雰囲気をもった女優だった、落ち着いた様子でミニスカートの長い足を組み堂々とした様子だった、「今回クイズ番組が初めての出演ということですがご感想は」「別に・・・」「そうそう、そういう愛想のないとこがソデカさんの魅力なんですね、さあ第一問の出題です」女性アナウンサーが「テレビドラマの刑事コロンボの愛車は何んでしょうかA、ロールスロイス、B、プジョー」「意外と簡単ね、B」「正解」「さあ、第二問です」「世界一性格の悪いプロレスラーはA鈴木みのる、B、桜庭一志」「A」「正解、さすが塩尻ソデカさんはプロレスにも詳しいんですね」塩尻ソデカは「プロレスは人生そのものよ、倒されても倒されても這い上がり戦い抜く男の中の男のスポーツよ、最高に楽しいわよ」その後、塩尻ソデカは勝ち進み十問を答えた、新舘次郎が「さあ十一問目の問題です」塩尻ソデカが「ちょっと待って何も前へ進むと言ってないわよ」その瞬間、また新舘次郎の目が引きつった、目による、目戦が始まった、もう、止めるの・・・当ったり前よ、当然じゃない先の二人は一万円だけ持って帰ったんでしょう、私はそんな惨めな事しないわよ・・・番組がこれから盛り上がっていこうとゆう時に、勝手じゃないですか・・・何言ってんのよ、お金が大事、五百十二万円貰って行くわ・・・そんな事言わないで世の中、政治が悪いのか非常に景気が悪くって夢を与える番組を視聴者が求めているんですよ、ねぇ、少しは真面目にお願いしますよ・・・何言ってんのよ、芸能人が皆、真面目でなきゃいけないの一般の人とは違って自由奔放で真面目でないから芸能人よ、芸能人は人より容姿が優れ、それに歌や踊りや演技が秀でているから芸能人になってんのよ、型にはまった人間じゃ芸能人になれないわよ、それと政治が悪いって政治家を選んだのは誰なの我々でしょう政治家のせいにしないでよ、あの独裁者のヒットラーもちゃんと選挙で選ばれているのよ、フセイン大統領の政権末期の国民の信任投票なんか100パーセントの支持が集ったの知ってるの、こういう人々を指導者にしたのは我々よ、これらの当時、偉大な指導者と言われたヒットラーやフセイン大統領やあの世間を大混乱に落とし入れた麻原彰晃の末路を知ってる?皆生きて穴倉に隠れていたのよ、カダフィ大佐なんか道路の下の土管の中で泥まみれでとっ捕まったのよ本当に気の小さな連中ばかりよ、ただ周り者が祭り上げ支えていただけじゃない情けないたらありゃしない本当にこの人たち男なの、じゃーね?と言って五百十二万円の札束を鷲ずかみにし立ち去った、新舘次郎はただ口を半開きにして見送るだけだった、だが、この瞬間、51パーセントの最高視聴率を獲得した、その後一般回答者で番組が続いたスリリングな展開を見せるクイズ番組として評判となり高視聴率をとり続けた、こうなれば番組スタッフの間で自信がみなぎり年末の特別番組の話までが社内に充満した十二月に入り半ばの十六日の放送分から出場者に変な男が勝ち続けている噂が社内に広まった出場するための二千人以上が受けたテストで、ただ一人100点満点をとり番組で勝ち続けている担当ディレクターが門倉章子に、「もうそろそろ問題を難しくして引きずり降ろしてくれないか」「はい、分かりました」と答えた、しかし、それでも勝ち続け止まる様子がないので「門倉君、どんな奴か来週の放送までに調べてくれないか」「はい、分かりました直ぐに身辺調査を実施します」と本人の提出書類を元に社内のワイドショー関係の担当部署にお願いした、数日後私の元に身辺調査の報告書が届いた、その内容を私はディレクターに報告した「東京都あきる野市の雹留山の麓のかなり大きな邸宅に住んでおりまして両親がねずみ講の金のペーパー商法で大儲けをし現在の住居を構えたようです、その後ねずみ講が法律で禁ぜられ猫田家は没落の一途を辿ったようです、猫田泰蔵は小学校の三年生の頃から登校拒否を繰り返し現在に至っているようです、まともに学校には行っておりません、登校拒否の理由と見られるものが小学生の三年生の時に自分の飼ってた二匹のねずみを親に毒殺されたのが原因だそうです、その後は家に籠りっきりとなり朝から夜遅くまでパソコンでネットサーフィンを繰り返しておった模様です、全ての知識を億科事典と言われるホームページより吸収した模様です、ですから全てのジャンルに関して全ての情報を把握し認識しているようです、」担当ディレクターは「よし分かった、だけど今さら、この番組を多くの人が見てる中で、ここでやめるわけにはいかないしスポンサーのイメージもある」と言って年末の特別番組に勝ち続けている猫田泰蔵を出場させる決断をした、しかし現在常識では考えられないような金額を獲得しているにも関わらず猫田泰蔵は止めようとしないのは何故だろう番組終了後本人を呼んで聞いてみることにした、担当ディレクターは門倉章子も同席させ、別室に猫田泰蔵を呼んだ「猫田さん、あなたの知識の豊富さを痛感させられました、本当にお疲れ様です、ところで現在の賞金獲得額がなんと十五問連続してお答えになられて一億六千三百八十四万円のテレビ史上最高額を獲得されてます、ところで我々にもいろいろ事情というものがありまして、もうそろそろ」猫田泰蔵は「何を言っているんだ俺がここで止めるとでも思っているのか貴様ら最初の約束と違うじゃないか賞金は天井知らずと言ってたじゃないか俺は絶対に止めないぞ」「何故ですか」「俺には目的が有る、小さいときに両親に可愛がってた、ねずみのチィーとミィーを毒殺された、その詫びを俺は誓ったのだ全ての動物の祖先はねずみだ今、世界中の動物園で閉じ込められ苦しんでいるチィーとミィーの仲間を大自然に帰す為に、この資金を元手に世界中の動物園を買い取るつもりだ三兆円は必要だ分かったか」と言って立ち上がり出て行った、我々は猫田は異常者だと思い寒気を感じ暫く動くことが出来なかった、しかし勝ち続けている猫田を年末の特別番組に出さない分けにはいかなかったディレクターは門倉章子に問題を著しく難しくして出題者に作成するよう命令した、門倉章子は「はい、分かりました、問題作成を有識者五名に加わってもらい年末の特別番組で猫田に出す十問を作成いたします」と答えた、大学の教授や医者や専門知識の備わった者で練りに練った問題が作られ一問ずつ黒い鍵の掛かった箱に入れられ箱の表に出される出題順の番号が打たれ厳重に保管され番組の放送を待った問題作成に私も同席しており出される問題を把握していた、しかし、もし猫田泰蔵が勝ち続け二十五問まで答えたら、どうなるんだろう、ちょっと計算してみようと、ええーとなんと一千六百七十七億七千二百十六万円、私に不安が過ぎった有識者が作ったあの問題で大丈夫かしらプレッシャーで夜も眠れない日々が続いた、あの二十五問目の問題は一件難しすぎる位の問題だが猫田は必ず答えるような気がした、私は「なんとかしなくてわ」と思うようになった、「第十六問、三億二千七百六十八万円の問題です、円周率の小数点以下の十桁の0から9までの数字はほぼ均等に出現しますが五兆桁の中で5000億1210000万8003回出現する十桁の内の一番多く出る数字は何んでしょうかA.0,B.1,C.4、D.7,E.8」調整室にいるディレクターは「さすが有識者はやるね、あの問題は答えられる筈がない、ウフフ・・・」と笑った、新舘次郎は「猫田さんの制限時間が迫ってまいりました、さあお答えをどうぞ」猫田は静かに答えた「E」「正解、すごいですね三億二千七百六十八万円の獲得です」ディレクターは「なんて奴だ、また答えやがった」と吐き捨てるように言った、ディレクターは門倉に「何とかならないか、あいつはこのまま進んで絶対に止めないぞ次の問題で何とかしてくれ」門倉は「次の問題は大丈夫だと思います、音楽に関する問題で猫田にとっては疎い筈です」「頼むぞ」「分かりました」女性アナウンサーが「第十七問、六億五千五百三十六万円の問題です、ユネスコの世界文化遺産のひとつバチカンはイタリアのローマ市内にある世界最小の主権国家ですが国歌の次に歌われる{賛歌と教皇の行進曲}を作曲したのは、A,シャルル・グノー、B,ジャック・アレヴィ、C.カミーユ・サン=サーンス、D,アレクサンドル・シャルル・ルコック、E,ジョルジュ・ビゼー」ディレクターは「この問題は奴の苦手の筈だ、絶対に答えられないぞ」新舘次郎は「猫田さん、お答えをどうぞ」「A」「正解です、お見事」、ディレクターは「何がお見事だ、幾らの賞金だと思っているんだ」新舘次郎は「六億五千五百三十六万円の獲得です、ところで、この賞金は何にお使いになりますか」猫田は「ほっとけ、何でもいいから次に行け」と吐き捨てるように言った、新舘次郎は「はい、次にまいります」、「第十八問、十三億一千七十二万円の問題です、」、「1927年、物理学者ハイゼンベルクは不確定性原理を確立しましたが、量子力学の勝率解釈を嫌ったアインシュタインは{神はサイコロを振らない}という有名な言葉を残しましたが、もしこの六面体のサイコロを一回振るものとして、その時に出る目の期待値は幾らでしょうか、サイコロの出る目の確率は全て六分一とする、A1.5、B2.5、C3.5、D4.5、E5.5」、ディレクターは「あいつは山勘で言っているに違いない、今度は確率論の問題だ絶対間違えてくれるぞ」と額に冷や汗を一杯かきながら願うように言った、猫田は平然と「C」と言った、「正解、十三億一千七十二万円の獲得です」、新舘次郎は「第十九問、二十六億二千百四十四万円の問題です、」女性アナウンサーは「黒澤明の最高傑作{七人の侍}の登場人物の侍としての自我・主体性の強い証として太刀とは別に脇差や短刀を差して登場しますが次の五人の中で一人だけ太刀を一本差しだけで登場している俳優はだれでしょうかA、勘兵衛{志村喬}、B、七郎次{加藤大介}、C、久蔵{宮口精二}、D、勝四郎{木村功}、E、菊千代{三船敏郎}」、ディレクターは「たとえ、この映画を見たとしても分かる筈がない」、新舘次郎は「そろそろ時間が迫ってまいりました、答えは」猫田は「D」と答えた、「正解二十六億二千百四十四万円の獲得です」ディレクターは「何で分かるんだ」と立ち上がったり座ったり落ち着かない様子で言った、新舘次郎は「第二十問、五十二億四千二百八十八万円の問題です、」ディレクターは「ここまできたか、何とかならんのか」と呟いた、女性アナウンサーが五択最後の問題を読み上げた「素数とは、2以上の自然数で正の約数が1と自分自身のみである自然数のことである、5の正の約数は1,5だけなので素数である、一方で4は、正の約数が1,2,4なので素数でない、100以下の素数を小さい順に列挙した場合、次のどれでしょうか?

(A)2,3,5,7,11,15,17,19,23,29,31,37,41,43,47,53,59,61,67,71,73,79,83,89,98、

(B)、2,3,5,7,11,13,17,19,26,29,31,37,41,43,47,55,59,61,67,71,73,79,83,89,97、

(C),2,3,5,7,11,13,17,19,23,30,32,37,41,43,47,53,59,61,67,71,73,79,83,89,97,

(D)、2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47,53,59,61,67,71,73,79,83,89,97,

(E),2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47,53,59,61,67,72,73,79,83,85,97

新舘次郎は、「さあ三分以内に答えていただきます」、ディレクターは「この時間内に、これを答えたら、あいつは天才だ」と諦めの表情を見せた、新舘次郎は「制限時間が迫ってまいりました、答えをどうぞ」、猫田はそっけなくDと答えた、新舘次郎は、「正解、五十二億四千二百八十八万円を獲得しました」と口をキリのように尖らして言った、場内の雰囲気は頂点に達していた視聴率はこの瞬間77パーセントを超えコマーシャルに入った、その時、場内の前の方で誰かが騒いでる様子だった、ディレクターが「誰だ、あんなとこで騒いでるやつは」と周りの者に言った、「ザツカヤバック氏です」と誰かが言った、「何、スポンサーのザツカヤバック氏か」と言って調整室を出て会場の前列まで来た、ディレクターはザツカヤバック氏の通訳を通じて聞いてみた、「アメリカ本土から自分のオールドブックのツィツターを通じて会社の幹部や株主から抗議が殺到しているとのことで、このままいくと会社の存続が危うくなってくるとの事です、少し前にオールドブックの株を公開したが思った程の値がつかなかったし世間で思われている程会社の資産は無いそうです、こういう事になり怒り心頭になっている模様です」、ディレクターは「多くの資産を持った会社と理解しておりましたが実情は違ったんですね」と言った、通訳は「ザツカヤバック氏はとにかく、ここで番組を終了してくれと言ってます」、ディレクターは「生本場中にそれは出来ないですよ今の視聴率が80パーセントに迫ろうとしてます、ここで止めるとスポンサーのイメージが極端に悪くなり貴方の居場所が無くなりますよ、とにかく、今の猫田を引き摺り下ろしますので、あと五問でかたをつけます」と言った、その時、コマーシャルが終わり番組が始まった、ザツカヤバック氏はしかたなく席についた、猫田泰蔵に難解で複雑な問題が二十一問、二十二問、二十三問、二十四問と次々出されたが全て答えた、そして二十五問目の問題を読む声が場内に響き渡った、もう私はこれで終わりかもしれないと思った時、また調整室の横で騒ぎが起きたディレクターが確認すると問題を作った有識者より今、女性アナウンサーが読んでる二十五問目の問題が自分の作ったのと全然違うと言ってきた「二十五問目の問題を私が作った、猫田に絶対に答えられない問題だ世界中の数学者が百年の間解くことが出来なかった問題を見事に解いたロシアの数学者グレゴリー・ヤコブレヴィチ・ペレルマンのポアンカレ予想に関する問題だったんだ、今読み上げている問題は違う誰がすり替えたんだ」と興奮しながら言った、ディレクターは直感した「門倉を呼んで来い」直ぐに門倉が入ってきた「君が今読んでいる問題をすり替えたのか、あんな簡単な問題はインターネットに出てるじゃないか、なんてことをしてくれたんだ猫田が答えられないとでも思ってんのか君は首だ出ていけ」と大声で叫んだ、私は調整室から泣きながら走り出て薄暗い通路を外に向かって歩き始めた通路の中から会場の歓声が聞こえる、しかし、いつもの歓声ではないし尋常ではない様子だった会場では女性アナウンサーが門倉の作った問題を読み続けている「問題、今おられる回答者の猫田泰蔵さんが幼いころ可愛がっていたチィーとミィーの二匹のねずみを両親が殺すのに使われた毒薬は次のうちどれか」その瞬間、今までビクともしなかった猫田の体が揺らいだ非常に苦しそうだった懸命にあがいている様子だった、会場のところどころから唸り声が上がった、猫田は言葉にしょうと懸命にあがいていた、でも答えられない様子だった、新舘次郎は「あと三十秒、二十秒、十秒、九、八、七、六、五、四、三、二、一、残念、答える事ができませんでした」、場内は歓声の渦に巻き込まれたディレクターは「何故、何故なんだ、今までと違う、こんな簡単な問題を答えられなかったんだ」と言って調整室を小走りで出て門倉章子を追った東京ドームの出口で門倉を見つけディレクターは息を切らしながら「すまなかった」と唇に笑みを浮かべながら言った、そして全てが終了したと思ったら一千六百七十七億七千二百十六万匹の画面のねずみが共食いをする映像の前のステージでマイクを握り締め猫田泰蔵が観客に向けて喚いていた「太古の昔、海から魚が上がり足が生え進化して、ねずみになった陸上での我々の祖先は全員ねずみだ、お前らサルじゃねぇぞ、ねずみだ、その我々の祖先のねずみを殺しやがって俺は復讐を誓った鉄格子で囲み見せものにされてる世界中の動物園の動物達を開放し元の大自然に帰す為に、ここへ来たのに裏切りやがった最後の問題を出したのは何処のどいつだ」と捲し上げた、暫くして数名の警備員が猫田の両脇を抱えステージから引き摺り下ろした、これで全てが終わった、会場内や関係者に安堵の空気が広がった、その後、放送倫理委員会や各種団体からの中止の要請があり番組は終了した、私は年明けの仕事始めの時に放送局の社長室に呼ばれ社長が「大変だったね、良くやってくれた、ご苦労さんでした、結局のところ終わってみれば天井知らずの賞金が売り物だったのに僅か賞金五百八十五万円で視聴率82パーセントという驚異的な数字をとったウフハァハァハァハ、その内の塩尻ソデカが獲得した五百十二万円がちょっと痛かったけどねソデカ様が一番賢かったってことだ、ウフハァハァハァハ」と高笑いをした、続いて社長は「今回スポンサーに、ご心配をかけたけど結果的にザツカヤバック氏は喜んでアメリカに帰られた門倉君本当に有難う、そこで君を正社員に昇進させることに決めた」、門倉は「本当ですか、有難うございます」とお礼を言った、そして社長が「門倉君、何故、有識者の作った、あの極端に難しい最後の問題を猫田が必ず答えると思ったんだ」、門倉は「それは直感です、幾ら難しくっても通常の問題は必ず答えると思いました、自分の蒔いた種を刈り取る為に悩みぬき、そして自分が地方から東京に出てきた時の事を思い出しました、それは東京の放送局に入りたくて全ての放送局を受けましたが全て駄目でした自信を無くし、それからというもの家にとじ込みがちになり、ついに鬱状態になりマスコミに関する事がトラウマになりテレビ、新聞、ラジオなどの見るもの聞くものが嫌になった事を思い出しました、そこで猫田泰蔵の一番嫌がる思い出の問題を出せば必ず答えられないと直感しました」、社長は「なるほど」と感心したように言った帰り際に同席していたディレクターが「いや、おめでとう、ところで門倉君ちょっとお願いが有るんだが、あの猫田があの騒ぎの後精神病院に運ばれ治療を受け、その後音信不通だったんだが本人から連絡が有って君に、あの時の賞金一万円を届けて欲しいと言う連絡が入った、お手数だが君に届けてくれないか、でないと、あの男の事だから、きちっと事後処理をしておかないと後がうるさいからお願いしますよ」と言った、私は「いいですよ、その位の事でしたら」と言った、あくる日私は電車に乗り、駅からタクシーに乗り換え運転手に行先を言った、運転手は「ええーあの屋敷に行かれるんですか、あの屋敷以外周りは何にも有りませんよ、近くに墓地が有るぐらいです、お一人で大丈夫ですか」と心配そうに言った、私は「いえ大丈夫ですよ、封筒を渡すだけですから」と言った、タクシーが雹留山の麓まで来た大きな霊園の傍を通り古めかしい洋館の門の前まで来た、私は運転手に「直ぐに戻りますから、ここで少し待っていただけますか」と車を降り、かなり大きな鉄の門扉の横の勝手口から中に入った石畳が奥の屋敷に向かって続いていた、夕べ降った雪が山沿いのせいか、まだ庭に残っていた私は歩いていて石畳の両側に雪の間から蕗の薹が顔を出すように無数の黒い小さな十字架が立っているのに気ずいた、私は一体これは何だろうと思った玄関に着きドアの横に有る呼び鈴を鳴らした暫くして中から「どうぞ」と小さな声が聞こえた、わたしは「テレビ局の門倉章子ですが」と答えた、するとドアが静かに開いた、そこには猫田がいた「わざわざ、今日は有難うございます、どうぞ中へ」と言った暫くぶりに合った猫田は顔色も一層蒼く見えた、「暫くぶりです、この間の賞金です」と猫田に渡そうとしたときに猫田は門倉の背後に回り込みドアを閉め鍵を掛けた、門倉は振り返り「何をするんですか」と猫田に言うと「何をするんですかって、僅かな賞金を持って来て笑わせるな貴様は俺の夢を打ち砕き奈落の底へ陥れた、これから貴様に、その仕返しをしてやる」門倉は「何をするんですか」と後ずさりした、猫田は「ウッフフフ」と薄笑いを浮かべた、すると部屋中の隅々からカサカサと至る所から小さな音がした、そして猫田の足元にその音が集まり始めた、何だろうと下を見た瞬間、猫田の足元に無数のねずみが集まり門倉に向かって静かに進み始めた、そのねずみが猫田が進む度に数が増えていき、どす黒い海のうねりのように門倉に向かって行った、門倉は後ずさりせざるを得なかった二階に上がる階段まで下がり門倉は階段の手すりを持ちながら後ずさりした、ゆっくりと上り始めた門倉に追いつくねずみ達が門倉の足に噛みつき始めた門倉はねずみを振り払いながら後ずさりした、それでも執拗に数十匹が門倉の体に纏わりつき足で振り払った一匹のねずみを階段の上で踏み殺した、それを見た猫田が「貴様は何てことをするんだ」と言って階段を数段駆け上がり踏み殺されたねずみを拾い上げ自分の顔にほうずりしながら「俺の息子たちよ、後で庭に埋めてやるからな」、と踊り場にいる門倉を見上げた、右の糸目の奥がキラリと光った、門倉は後ずさりを早め二階に上らざるを得なかった、階段や手すりにねずみが立錐の余地も無く埋め尽くされていた、門倉の顔や手や足の無数の傷から血が溢れ出ていた、小走りで廊下の奥の突き当りのドアの中に逃げ込んだ勢いで前へ倒れこんだ、その拍子に門倉の頭に何か当たるものを感じ見上げると椅子に座った殆どミイラ化した二体の死体があった、体はロープで縛られロープが肉に食い込み少し前かがみの顔に髪の毛が垂れ下がっていた、ミイラ化した頭蓋骨の目や口から、ねずみが顔を出したり引っ込めたり出入りを繰り返していた、猫田がねずみを連れてドアの入り口の所で仁王立ちになり、ねずみも一瞬立ち止まった、そして、こう言った「ウフッフッフッ、それは俺の両親だ俺の可愛がっていたねずみを殺しやがって俺が復讐してやった」と不気味な声を発しながら笑っていた門倉は体中が痛みと恐怖で震えていた、ついに、その時が来た猫田についてきた数千匹のねずみが一斉に門倉に襲い掛かかり絶命するまで時間はあまり掛からなかった、猫田の笑い声だけが何時までも屋敷内に響き渡った、暫くして外で待っているタクシーの運転手が余りにも帰りの遅い門倉を心配し勝手口を開け玄関まで小走りで向かった呼び鈴を鳴らし続けたが応答が無かったので悪い予感が走り運転手は直ぐに警察に助けを求めようと自分の車に飛び乗り無線のマイクを取り上げボタンを押した瞬間、ダッシュボードや通気孔やシートの周りの至る所から数千匹のねずみが溢れだし運転手に襲い掛かった、屋敷の玄関先では猫田が薄笑いを浮かべながら見守っていた、そして玄関を降りて庭に入り抱えていたねずみの死骸を穴に埋め十字架を立て自分の胸元で十字をきって静かに上を見上げた、其処にある空には、ねずみ色の雲がどこまでも広がっていた。 

                            終わり








すべての物語が終わった後も、空は鼠色一色。

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